本研究は,良好な音環境を保全するためのマネジメント手法について,騒音暴露の物理量だけでなく,住民が地域生活を通じて共有してきた社会的文脈を重視して考察することを目的とするものである。この目的のもとに延長後の最終年度となる平成27年度は以下の事項を実施した。 ・オランダ・フローニンゲン中心市街地における学生による騒音に関する調査を実施した。前年度に実施した聞き取り調査の結果を分析し,この都市が大学都市としての長い歴史を持ち現在も市民の1/4が大学生であるという社会的文脈が,学生による騒音の受容に影響を与えていることを示した。結果の一部を欧州騒音制御工学会において発表した。 ・欧州の音環境マネジメントの動向について調査した。オランダ環境省の騒音政策専門家にヒアリングを実施し,国および地方自治体レベルにおける音環境ガバナンスの状況について情報を得た。また,欧州騒音制御工学会においてサウンドスケープと騒音政策に関する部会およびワークショップに参加し音環境に関する学術研究の動向と騒音政策の社会的動向について有意義な知見を得た。 ・これまでの研究の総括をおこなった。サウンドスケープ概念に関する分析,景観および音環境に関する欧州および日本国内の政策に関する調査,音環境と社会的文脈に関するフィールド調査に関する知見を総合し,ローカルな音環境を地域の住民および自治体が協働してマネジメントをおこなうことの重要性を示し,そのための課題を整理した。
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