本研究は、汽水漁場の持続的な利用条件を、外部経済を媒介する各漁家世帯の意思決定プロセスに加え、特に、世帯間交渉(住民の組織化と運用戦略)に照準を合わせ、その持続性の条件を検討することを目的としている。本研究では、これまでフィールドワークにもとづき、世帯活動の民族誌的分析を通して、漁場の過剰利用の実態とそれを生み出す地域の特性を分析した。最終年度にあたる2014年度は、2013年度に引き続き、各世帯の資源利用と経済活動の多様性とそれら世帯生計戦略を支える価値や規範を、調査対象漁場のエリ漁(taba、tigbakoe)に従事する世帯を中心に明らかにした。また、世帯間の交渉と漁場秩序生成の機序については、当初、漁場を「共に利用する」という点で生まれる世帯間関係はどのようなものであるのか。そこにみいだせる共同性とはいかなるものであるか。漁場利用の秩序形成と世帯間交渉はどのような関係にあるのか。さらには、世帯間交渉のどのような要素が、漁場過剰利用に対する行動を規定しているのか。以上の点を、明らかにする予定であったが、調査の遅れから、地域に存在するボランタリーな漁民組織が漁場利用秩序に一定の役割を果たしていることを明らかにするにとどまった。この点は今後の課題である。しかしながら、漁場の過剰利用への対処方策として、土砂堆積により漁家経営が成り立たなくなった汽水漁民が、その適応戦略として、エコクルーズに着手した漁民組織化の事例に接し、汽水を利用する漁民の生活条件と生活戦略について当初の予定とは異なる新たな洞察を得ることができた。
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