研究課題/領域番号 |
24510061
|
研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
萩原 清子 佛教大学, 社会学部, 教授 (00198649)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 階層的厚生 / 持続可能性 / 多基準法 / コンフリクトマネジメント / 脆弱性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1)流域水環境マネジメントのための意思決定支援手法の理論的基礎を本来軽視してはならない厚生経済学の理論に基づいて考察する。そのためにまず、厚生経済学の理論の系譜から流域水環境マネジメントにおける費用・便益分析と多基準分析の位置づけを明確にする。2)これまで無意識に規範化されてきた主として貨幣で表現される効用最大化という厚生の概念に対して、社会調査に基づいて生活者の潜在化している多様な厚生の構成要素を階層的構造として顕在化する。3)日本国内およびヨーロッパにおける流域水環境マネジメントにおけるコンフリクトの扱いを検証する。4)多様な生活者の階層的厚生に対応し、また生活者間の関心の違いによるコンフリクトにも対応した意思決定支援手法を多基準分析を基に構築する。5)以上より、生活者の多様な厚生とコンフリクトを考慮した流域水環境マネジメントを構築する。である。以下に平成26年度の研究計画に沿って実績を示す。 ①アウトランキング法の拡張:25年度に検討した階層的多基準分析により、鴨川流域における地域環境の厚生水準を求めた。 ②アウトランキング法とコンフリクトマネジメント手法の統合モデルの実証:①で検討した地域環境の厚生水準の構成要素間に存在するとコンフリクトを把握した。 ③厚生水準の構成要素の係数により地域環境改善のための優先策の順位付けを行った。以上により、3年間の研究の総括として、生活者の多様な厚生と生活者間のコンフリクトを考慮した流域水環境マネジメントを多基準分析システムとして構築した。さらに、地域環境の厚生水準の検討から地域における社会経済的脆弱性の考慮が必要であることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多様な厚生とコンフリクトの考慮に加えて地域の脆弱性を考慮した流域水環境マネジメントの必要性を示唆するとともに実流域での現状分析を行った。この成果は27年度に英文書として出版される予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
社会経済的脆弱性を考慮した環境の防災・減災システムに関する研究として推進することとしている。本研究では、人間の厚生(well-being)を多様な要素から成る(多元的である)欲求階層モデルとして示している。第1レベルは生存の確保(所得,健康,安全)、第2レベルは生活の充実(便利,快適)、第3レベルはゆとりある生活(生きがい,交流,趣味,豊かな自然)である。これらの要素を個人レベル、民間レベル、公共レベルが各々相互に補完し合いながら満たしてゆくもの(ガバナンス)と考えられる(研究業績44参照)。階層的なwell-beingモデルでは、社会の成長がいかなる水準にあっても、安全・安心の欲求はそれに即応してつねに基底に位置付けられるべきものと考える。したがって、持続可能性とはwell-beingの基底にある安全・安心、すなわち、生存が確保された上でのものといえるであろう。持続可能性の達成を危うくするのは第1レベルが脆弱、すなわち社会経済的に脆弱である場合である。本研究では、脆弱性(vulnerability)を と表わす(研究業績6参照)。脆弱性の程度は、被害をもたらすある事象(環境汚染、水災害、地震などの危険事象:peril)が生起する前の自然・社会環境条件(危険事情:hazard)によって決まる。今後の研究としては、階層的well-beingから社会経済的脆弱性を統合的に把握し、環境汚染、水災害、地震などによる環境災害の防止や軽減の方法論を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を英文書として出版する予定であり、研究成果の英文校閲が年度内に終了せず次年度の英文校閲費として確保しておくためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
英文校閲費として支出する。校閲費支出後の残額については本研究の発展として行う今後の研究推進に必要な経費に充当する。
|