研究課題
基盤研究(C)
日本人の2人に1人ががんに罹患する時代となって、がん征圧は人類の悲願である。しかし、いまだにがんに対する決定打となる治療法は確立されていない。がんの3大治療法には、手術療法、化学療法、放射線療法がある。放射線療法は、放射線による細胞傷害性を利用してがんを制御する局所療法であり、組織の機能温存性に優れている利点をもつ。がんに対する放射線療法の成績を向上するためには、がんの放射線耐性の克服が不可欠である。がんの放射線耐性には、がん組織に数%の割合で存在する自己複製能と腫瘍形成能を併せ持つ細胞群、がん幹細胞が重要な役割を担っており、その高いDNA修復能が耐性に関与すると考えられている。我々は、放射線治療で用いられる分割照射法を用いて、ヒトがん細胞から放射線耐性のがん幹細胞の濃縮が可能かどうかを検討した。ヒトがん細胞に約2か月半にわたり分割照射した後、生存する細胞におけるがん幹細胞マーカーCD133の発現を解析し、照射前には10%程度であったがん幹細胞を、約90%にまで濃縮する照射条件を決定した。濃縮したがん幹細胞と分割照射前の親株細胞を用いて、それぞれの放射線応答を比較し、がん幹細胞の放射線耐性には、細胞の生存シグナルAKT経路が関与することを明らかにした。さらに、AKT阻害剤と放射線を併用することで、がん幹細胞の放射線耐性を克服することに成功した。放射線治療成績の向上のためには、腫瘍に限局して放射線を照射するための放射線照射装置の開発の検討が行われ、十分な治療成績の向上が得られた。しかし、それでもなお、放射線により治療効果が望めない放射線耐性の腫瘍が存在する。本研究では、放射線治療で問題となるがん幹細胞の放射線耐性は、AKT阻害剤を用いて抑制可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
肝臓がん細胞HepG2と神経膠芽腫細胞株A172を用いて、分割照射により、照射前には10%程度であったがん幹細胞を、約90%にまで濃縮する照射条件(0.5GyのX線を1日2回で82日間)を決定した。放射線の照射線量を上げ、短期間でのがん幹細胞の濃縮を試みたが、上記以外の照射条件でのがん幹細胞の濃縮は観察されなかった。濃縮したがん幹細胞と親株細胞との放射線応答の比較により、がん幹細胞の放射線耐性にはAKT経路が関与することを明らかにした。さらに、AKT阻害剤を用いて、AKT経路を抑制することで、放射線耐性の克服が可能であることを明らかにした。以上の研究成果から、今年度の研究目的はおおむね達成された。
今年度の研究成果により、放射線治療で問題となるがん幹細胞の放射線耐性は、AKT阻害剤を用いて抑制可能であることを明らかにした。ヒトがん細胞を用いて得られた培養細胞におけるAKT阻害剤による放射線耐性の抑制の効果が組織内でも同様であるかどうかを動物実験により検討する。in vivoにおける放射線感受性はヌードマウスに細胞を移植し、形成した腫瘍において解析する。放射線分割照射 (3Gyx7回)後、親株由来の腫瘍とがん幹細胞由来の腫瘍の増殖を観察し、増殖曲線から放射線の抗腫瘍効果を検討する。がん幹細胞はがん幹細胞マーカー遺伝子CD133の他に抗がん剤の排出に関わるABCトランスポーター遺伝子(MDR1やBCRP1)が高発現していることが報告され、これが抗がん剤耐性の原因であると考えられている。定量的逆転写PCR(RT-PCR)で遺伝子発現を解析し、放射線で濃縮したがん幹細胞においてもこれらの遺伝子の高発現が観察され、抗がん剤に耐性を示すかどうかを明らかにする。さらに、幹細胞マーカー分子のタンパク質発現を蛍光免疫染色法とウエスタンブロッティング法で解析する。
培養実験、動物実験と成果公表のため、以下に研究費の使用を計画する。[細胞培養用試薬・培地]RPMI-1640培地・トリプシン・PBS・血清など 500,000、 [プラスチック製品] 培養フラスコ 200,000、 [薬品] 抗体用試薬 400,000、 [研究成果公表] 学会発表、論文の校正、掲載料 500,000、 [実験動物] ヌードマウス100,000
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Cell Cycle
巻: 12 ページ: 773-82
PLoS One
巻: 1 ページ: e12
doi: 10.1371/journal.pone.0054312.
Oncogenesis
巻: 8 ページ: e54312
doi:10.1038/oncsis, 2012