研究課題/領域番号 |
24510067
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
今泉 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80126391)
|
研究分担者 |
狩野 直樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (00272857)
|
キーワード | T-for-H交換反応 / トリチウム / 放射線加重係数 / 疑似地下浸透水 / 降水 / 短期降水 |
研究概要 |
25年度は、交付申請書への記載と前年度の成果に基づき、主に以下の2つを行った。 (1)前年度で行った低温付近での水素同位体交換反応(T-for-H交換反応)が、比較的高温付近でも同様に起こるかどうかを調査する目的で、50~90℃の温度範囲でのT-for-H交換反応を速度論的に観測した。さらに、この温度での観測を温度と時間を変えて、同様に観測した。(2)以前我々のグループで開発した疑似地下浸透水採水器を使った降水採取を、新潟市において行い、降水中のトリチウム濃度などの変化を追究した。さらに、1時間毎の降水も採取し、その中のトリチウム濃度を測定し、トリチウム濃度などの時間変動を調査した。 以上の研究から、以下のことが明らかになった。(1)体温付近で起こるT-for-H交換反応は、比較的高温で起こるT-for-H交換反応とその反応形態が同様で、温度の上昇とともに反応割合が定量的に増加するのみで、反応に関与する物質の分子状態には変化を及ぼさない。即ち、分子同士の会合や分解などは起こらない。従って、トリチウムが取り込まれる物質を目的物質としたトリチウム放射線加重係数を物質毎にある程度細かく相互比較できる。(2)新潟市において採取した降水中のトリチウム濃度や他のイオン濃度から、降水中の各種濃度は福島第一原子力発電所事故前の数値と誤差範囲内で一致しており、新潟市では、この事故の影響は見られなくなった。また、1時間毎の降水中のトリチウムを含む各種濃度の時間変動にも事故後に見られた有意性は認められなかった。 以上から、トリチウム放射線加重係数を物質毎に相互比較できる手法の構築にある程度の目処がたったことがわかった。また、原発事故後の影響はかなり限定的になってきていることも明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は、既設の真空ラインを少し改造し、高温付近が観測できるようにした。また、高温付近での固体-液体反応を観測できるようにインキュベータを改善し、温度のロスが少ない状態にした。このようにして実験した結果、比較的高温でのT-for-H交換反応の観測が、固体-気体及び固体-液体の両反応において、定量的にできるようになった。そのデータを基に以前発表した解析プログラムを使って解析した結果、得られた速度定数から、高温付近と低温付近とでのT-for-H交換反応の反応形態に変化がないことわかり、低温付近のデータと高温付近のデータとを直接、相互比較できることが明らかになった。従って、物質同士の反応性を広い温度範囲で相互比較でき、トリチウム放射線加重係数を策定する上で重要な結果が得られた。 また、新潟市での降水採取から、降水中のトリチウム濃度や各種イオン濃度などを、原発事故前のデータと比較することができ、その結果、原発事故後に見られた事故による明らかな有意性は認められなかったことから、事故の影響はかなり限定的になっていることが推定できた。
|
今後の研究の推進方策 |
26年度は最終年度につき、これまで得られた結果に基づいて、高温と低温とでT-for-H交換反応の特徴を解析し、また、解析が必要な温度や試料量などについても検討し、必要あれば追加実験を行う。特に、低温付近での反応性を精度よく測定する手法について検討を加える。 さらに、固体-気体反応と固体-液体反応との起こりやすさを定量的に明らかにすることで、T-for-H交換反応の起こりやすさの相互比較について検討する。 また、新潟市付近の気団動態の特徴を明らかにするため、月別の疑似地下浸透水について、年間を通して観測し、さらに、後方流跡線解析の手法を導入することで、降水をもたらす気団動態を追跡する。また、1時間間隔の降水を採取することで、降水そのものの変動を調査する。 以上を基に、本研究課題である「原発由来等のトリチウムが生体に及ぼす影響解明のための定量評価法の構築」についてのまとめと総括を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は、3年間の実施期間であるため、最終年度の26年度の研究費及び実験実施費を要求してあり、その分が次年度使用額として生じている。 T-for-H交換反応において、特に低温領域での反応観測の確からしさを上げるため、実験ラインの小規模な改造を行い、実験に供する。さらに、降水観測のための装置の改良や製造を行い、観測に供する。 また、多くのデータが蓄積されてきたので、学会発表や論文発表などを精力的に行う計画である。
|