研究課題
今年度は、紫外線による塩基損傷がDSBやssDNA等の二次的なDNA損傷に変換されるメカニズムの解明と、生体内での二次的DNA損傷の生成の意義を明らかにすることを目的として実験を行い、以下のような成果を得た。1. 紫外線により生じる塩基損傷の生成頻度を考慮すると、直接DSBが生成するとは考えにくく、ヌクレオチド除去修復(NER)によってDNA損傷が除去された後のssDNAギャップ中間体がエキソヌクレアーゼ等によるプロセッシングを経てDSBが生じている可能性が高い。その可能性を検討するために、S期においてDSBの生成に関わる酵素について検討を行なった。まず、最近その関与が報告されたArtemisノックアウト細胞を入手して検討を行ったが、正常細胞と比較して二次的DNA損傷の生成を示すATMの1981番目のリン酸化およびH2AXのリン酸化が低下することはなかった。また、S期において関与するMus81がArtemisの欠損をバックアップしていることを考慮し、Artemisノックアウト細胞にMus81に対するsiRNAを導入して検討を行ったが、これらの酵素の関与を示す結果は得られなかった。しかしながら、siRNAを用いてノックダウンを行った場合、20-30%程度残存するタンパク質が存在し、それらの影響を無視することはできないと考えられる。2. 昨年度は生体内の休止期の細胞における反応を調べたが、本年度はゆっくり細胞周期を回っている幹細胞について検討を行った。まず典型的な幹細胞のモデルとして、正常なマウスから骨髄細胞を単離し、ソーティングにより造血幹細胞を得た。この細胞に紫外線を照射したところ、H2AXのリン酸化が観察され、NERを完全に欠損したXPAノックアウトマウスから調製した場合には、その程度は低かった。従って、幹細胞においても休止期の細胞と同様な反応が生じることが考えられる。
3: やや遅れている
本研究計画を遂行する上で鍵となるのが、着目するDNA損傷応答を活性化する二次的DNA損傷生成機構の解明にある。それはNERによってDNA損傷が除去された後に生じたssDNAギャップ中間体が、エンドもしくはエキソヌクレアーゼ等によるプロセシングを経てDSBを生成する可能性が高く、その酵素の同定が極めて重要である。昨年度、静止期の細胞に比較的効率良くsiRNAを導入する条件を決定したが、種々のsiRNAを導入してその発現量の変化について検討してみると、やはり無視できない量のタンパク質が残存しており、そのノックダウンの効果に関してはっきりとした結論が得られないことが大きな要因として挙げられる。また、紫外線照射後の局在性の変化についても検討を進めたが、導入効率や発現量の低さが原因となり、はっきりとした結果が得られていないことも研究を遅らせる原因となっている。そして生体内における反応について検討するには、NERを欠損したノックアウトマウスの解析が必須であったが、なかなか胎児が生まれず、計画していた実験がなかなか進められなかった。
今年度までは、主にsiRNAを用いて解析を行なってきたが、静止期の細胞では導入効率において問題があると考えられるので、その解決策としてレンチウィルスを用いたshRNA系を導入して解析を進める。現在、既にいくつかの酵素については導入用のコンストラクトの作成を終え、ウィルスの作成を進めており、NERのギャップ中間体のプロセッシングに関わる酵素の同定に全力を注ぐ。また、単独で処理した場合に効果が現れない場合を考慮し、可能性のあるものについて複数の酵素を同時にノックダウンした場合の影響についても検討していく。また紫外線照射時の局在性の変化についても、EGFP融合タンパク質の導入効率の低さを補うために、レンチウィルス発現系を導入し、その点からも候補を絞っていく。そしてその候補を同定できた場合、その活性の制御機構や、それを欠損した時の紫外線やヌクレオチド除去修復の基質となるDNA傷害剤の影響について、細胞レベルそして個体へと解析を展開していく。一方、今年度の解析により、幹細胞においても休止期と同様な反応が起きていることが示唆されたが、実験回数を増やして定量的な解析を進めるとともに、皮膚等の他の組織の幹細胞でも同様な反応が生じるか検討する。
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