研究課題/領域番号 |
24510072
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田野 恵三 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (00183468)
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研究分担者 |
増永 慎一郎 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (80238914)
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キーワード | 活性酸素種 / 細胞内至適環境 |
研究概要 |
細胞内活性酸素種(ROS)は、放射線や環境変異原が原因で生じるだけでなく、通常の生理作用でも絶えず生じている。このような細胞内因性ROSは、抗酸化酵素や蛋白の働きで生理学的に至適な活性酸素環境に維持され、細胞の健全な生理機能に寄与する。本研究は、これら至適環境維持を担う抗酸化酵素や蛋白に着目し、その遺伝子を欠損させた細胞を作製することで結果的に内因性ROS を増加させ、その解析結果から、内因性ROSの生物影響評価とその至適環境維持機構について、生物学的意味を明らかにすることを目的としている。 24年度は、SOD1枯渇による細胞内酸化度の上昇に伴う娘染色体交差の発生頻度を尿酸が有意に減少させることを見いだした。また、アスコルビン酸とは異なり、尿酸では細胞致死の回復はできなかったことから、細胞内酸化レベルの増加による細胞致死は、必ずしもDNA損傷を経由しないことも暗示された。 しかし、娘染色体交差はすでに修復が完了したことを示す指標であり、致死性を示す損傷マーカーとして充分とは言えない。そこで25年度は、直接DNA鎖切断の指標として用いられる染色体断裂とRad51蛋白の核への集積をマーカーに加えて解析を試みた。Rad51の集積データは取れていないが、より直接的な染色体断裂はSOD1枯渇で生じること、また生じた染色体断裂は、尿酸処理により抑制されることを見いだした。これらは、細胞内の酸化度の増加に伴うDNA損傷が必ずしも細胞致死性をもたらさないことを示している。 上記と平行して解析を進めているPrdx1条件欠損株においても、Prdx1枯渇に伴う細胞死の過程において、染色体断裂が生じないことも見いだした。これらの結果から、DCFH解析など、種々の細胞内酸化マーカーによる解析ではなく、細胞内の微細環境における細胞内酸化レベルの解析が必要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体損傷(DNA 損傷)のマーカーとして、24年度までは娘染色体交差を用いていたが、娘染色体交差は致死損傷マーカーとして十分とは言えない。25年度は、直接的な致死損傷マーカーとして、染色体断裂と損傷認識蛋白であるRad51の免疫染色法を導入し、確立した。 また、条件欠損細胞を用いた解析と平行して、細胞内酸化度を増加させる薬剤を用いた解析も進めた。特に、ガン細胞やトランスフォームされた細胞について、特異的に致死性を示すピペロングミン(piperlongumine)の作用機序の解析をDT40 遺伝子破壊細胞パネルを用いて行った。興味深いことに、この薬剤は活性酸素種を原因とするDNA損傷である塩基損傷修復欠損細胞には感受性を示さないことを見いだした。また、直接DNA損傷を生み出すことを染色体断裂解析やRad51の抗体染色で確認した。さらに、この薬剤が相同組み替え修復自身を阻害するデータを得たため、確認実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
24年度と25年度の2年間は、概ね順調に研究を進めることができた。改善すべき点としては、より安定的に細胞内酸化度の定量プローブを導入することであるが、未だDCFH に代わる安定なアッセイシステムの開発には至っていない。また、24年度から導入を試みているパーオキシナイトライトの定量プローブによる解析も進行中の域を出ない。細胞内酸化レベル増加が、必ずしもDNA損傷を経由しないと言う結果を受け、細胞死をもたらす活性酸素種と細胞内の酸化ターゲット分子のいずれについても特定を急ぐ必要性がある。この点は最終年度の大きな目標となる。 一方で25年度から解析を進めているピペロングミン(piperlongumine)の様な、細胞内酸化度増加を要因とするガン細胞やトランスフォーム細胞に対して、特異的に致死性を示す薬剤の作用機序の解析は、細胞内酸化レベルの恒常性維持の研究としてのみならず、臨床面の基礎データを得る意味からも重要であり、研究最終年度における新規の重点ポイントとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度までの研究経費の支出については申請した項目に沿っており逸脱は無い。最終年度も同様に、研究を継続するための培養関連消耗品と試薬類を断続的に購入する必要があり、最近より発展性を得られている研究成果を発表する費用も必要であるため。 最終年度も培養関連の消耗品と試薬類が主体となる。また、研究成果の発表に伴う投稿論文の英文校正料と投稿掲載料への支出を予定している。旅費は、成果発表と関連情報収集を目的として、関連国内学会(日本放射線影響学会、環境変異原学会、分子生物学会)及び7月に開催されるGordon Conference (Genomic Instability)に参加するための費用として支出を予定している。
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