研究課題/領域番号 |
24510072
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田野 恵三 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (00183468)
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研究分担者 |
増永 慎一郎 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (80238914)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 活性酸素種 / 細胞内至適環境 |
研究実績の概要 |
細胞内活性酸素(ROS)はDNAに損傷を与え、突然変異や癌化の一因と考えられている。しかし、ROSは正常な生理作用で絶えず生じ、至適環境下では細胞内情報伝達因子として機能し、抗菌や抗炎症にも必須な役割を果たすことから、細胞内在性ROSの至適環境を維持する機構が生命活動に重要と考えられる。 この機構解明のため、遺伝子破壊が容易なニワトリDT40細胞を用いて解析を進めてきた。抗酸化蛋白SOD1,SOD2,Prdx1の条件欠損細胞を作製し、内在的にROSを増加させる手法での細胞影響を解析し成果発表した。25年度は、染色体断裂やDNAニ本鎖切断認識蛋白Rad51の免疫染色法を用い、内在的ROSの増加によるDNA損傷誘発が必ずしも細胞死の原因ではないことを確認した。26年度には、DNA単鎖切断を評価できるアルカリコメットアッセイを導入した。 細胞内ROSバランスを攪乱する薬剤による生理効果についても解析を始め、26年度は腫瘍細胞特異的致死効果と細胞内ROS増加効果のある薬剤Piperlongumineの作用機序について、DT40修復遺伝子欠損細胞パネルを用いて解析した。この薬剤がROS増加作用と共にDNA二本鎖切断を誘導すること、二本鎖切断の主要な修復経路である相同組換え修復自体を阻害することを見出し、Genes and Cancerに発表した。 細胞内酸素濃度に依存して細胞致死効果を与える薬剤Tirapazamine(TPZ)の機能解析も行っている。腫瘍組織は低酸素状態だが、TPZは低酸素下で腫瘍細胞特定的な致死効果が期待される。TPZの低酸素領域と通常酸素領域での致死効果をDT40を用いて解析した。TPZが低酸素環境特異的にDNA-topoisomerase非解離型損傷を生み出すこと、TPZが通常酸素下でもROS依存的にDNA損傷を生み出し、細胞致死性を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度に染色体損傷(DNA損傷)のマーカーとして確立した染色体断裂と損傷認識蛋白であるRad51の細胞免疫染色に加えて、26年度はアルカリコメットアッセイの解析系を確立することが出来た。前者が主にDNA二本鎖切断の指標であるのに対して、後者は、DNA単鎖切断を評価することが可能な系である。 また26年度には、細胞内酸化度を増加させると共に腫瘍細胞特異的致死をもたらす薬剤Piperlongumineの作用機序の解析をDT40の遺伝子破壊細胞パネルを用いて行った。25年度に見出したDNA二本鎖切断誘発機能に加えて、この薬剤が相同組み換え修復自体を阻害することを確認した。この結果は、26年度のGordon Conference (Genomic Instability)で報告すると共に、Genes and Cancer誌に発表した。 さらに26年度は、腫瘍細胞特異的微細環境の一つである低酸素環境下で毒性を示す薬剤Tirapazamineの機能解析について、同様にDT40の遺伝子破壊細胞パネルを用いて行った。特にこの薬剤が通常酸素圧でもマイルドな致死効果を与えること、その致死効果はこの薬剤の還元作用で生じる活性酸素種によること見出した。 活性酸素種によるDNA損傷が主にDNA単鎖切断であることから、26年度に確立したアルカリコメットアッセイを用いて、現在解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を延長し、アルカリコメットアッセイを用いた手法で、酸素濃度依存的に異なるDNA損傷誘発機構の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に低酸素応答による酸化ストレス増加によるDNA損傷の検証をマウス像腫瘍系で行い、その結果を元に国際会議で研究成果を発表する予定であったが、造腫瘍系の確立が不十分だったので、計画を変更し、細胞レベルのコメットアッセイを行ってから成果発表を行うこととしたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
このため国内で開催される国際会議での研究成果発表を次年度行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
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