福島第一原発事故により局所的に高線量となった地域から、事故直後は水系を通じて湖沼等への放射性物質の流入が起きていた。水道、農業、漁業など多目的に利用されている湖沼を、放射性物質のリザーバーと単純に位置づけることには問題がある。本研究では、原発事故直後の2011年4月から開始した霞ヶ浦底質の放射性物質測定を拡張し、水面下にあって遠隔的な計測法では観測できない湖底での放射性物質のマッピングと動態解析を行う。 霞ヶ浦(西浦)湖底全域を1分メッシュで区切り、主要河川の河口部を含む計77地点において、2012年12月、2013年9月、2014年10月の3回の調査を設定し、底質試料を採取し、湖底の放射性セシウムのマッピングを行った。また、主要河川の流入負荷や、湖底の代表的な地点でのコア試料の深さ方向分析もあわせて行った。初回調査では、湖西部に放射性セシウムが高い傾向があり、地上部での放射性セシウムの沈着との連続性が高く、初期沈着の影響が顕著であった。また、高線量地域の河口域での流入負荷も明瞭に認められた。2回目、3回目の調査では、湖西部や河口域の濃集は解消されつつある様子が見られ、底質の深部へ放射性セシウムが混合、移動していることも認められた。底質全体を積分した放射性セシウムの全量に大きな変化はない。一方、コア試料の分析では、2013年から2014年への存在量の変化は小さく、初期沈着した放射性セシウムの水平、垂直輸送はほぼ完了し、その分布は固定化してきていることが示された。また、放射性セシウムの物理減衰による減少量と流入量は拮抗しており、今後、大規模な流入負荷は起こりにくいと判断した。以上をもって、毎年、詳細な水平分布調査を行う必要性が低いと判断し、今後は、年に1回程度の小規模調査により、分布の変化について追跡調査を行えばよいという結論になった。
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