研究課題/領域番号 |
24510078
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
藤本 浩文 国立感染症研究所, 放射能管理室, 主任研究官 (60373396)
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研究分担者 |
小池 学 独立行政法人放射線医学総合研究所, その他部局等, 研究員 (70280740)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 損傷修復 / DNA二本鎖切断 / Ku / 損傷認識 |
研究概要 |
KuはDNA2本鎖切断(DSB)末端を認識・結合し、DSB修復経路の一つであるnon- homologous end-joining過程(NHEJ)を開始するタンパク質である。DSBにおいて、DNA末端の形状は平滑末端とは限らず、切断時の状況よって様々なバリエーションが考えられる。本研究では、種々の末端形状を持つDNAとKuタンパク質との相互作用を分子シミュレーションによって解析し、Kuタンパク質と各DNA末端との結合能力を実験的に確認することでKuタンパク質が認識しうるDNA末端形状の特徴を明らかにしたいと考えている。 DSBが生じる原因には、1本の電離放射線から生じるラジカル等によって2本鎖が同時に切断される場合も考えられるが、生体内においては1本鎖切断(SSB)の近傍に別のSSBが生じることでDSBが生じる場合が多いと考えられている。そこで本年度はDSBの末端構造として2塩基対離れた位置にβ-SSB(塩基が脱落し五炭糖が開環したSSB)、もしくはβ-δ-SSB(塩基が五炭糖ごと脱落したSSB)が2塩基対離れて生じた場合を想定しDNAのモデリングを行った。 次年度はこれらの末端構造をもつDNAとKuタンパク質の複合体を設計し、DNA-Ku間の結合力を、平滑末端を挿入した場合と比較することで平滑ではない末端構造に対するKuタンパク質の結合能を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開環した五炭糖等の不自然な末端構造に対して分子シミュレーションを行うには、末端の電子状態を厳密に検証する必要がある。そこで、分子軌道計算ソフトウエアGAUSSIANを用いてβ-SSB、およびβ-δ-SSBの5’末端の分子構造の解析を行い、各原子の最適位置と部分電荷を決定した。次にDNA分子中にこれらのSSBを挿入し、MDシミュレーションによってDNAの構造やエネルギー状態の変化を解析することで各モデルの妥当性を検証した。 通常一般的な分子では1度の計算で収束解が得られることが多いが、今回モデリングを行った末端構造における分子軌道計算では、反応性の高い酸素やリン原子が末端に位置するためか計算が収束せず、初期配置を変えて計算を繰り返す必要があった。そのため、妥当な計算結果を得るまでかなりの時間を要し、当初の計画より若干の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
平滑末端を持つDNA分子とKuタンパク質の複合体モデルに対し、DNA末端の塩基対を本年度得られた各SSBモデルと置換した分子モデルを構築する。SSBが生じる際塩基が脱落することを考慮し、3’末端側に1塩基~数塩基突出したモデルもあわせて設計する。各分子モデルに対し数ナノ秒レベルのMDシミュレーションを行い、DNA-Ku間の結合エネルギーを推定し、平滑末端を持つDNA分子とKuタンパク質との結合エネルギーと比較することで、DNAの末端形状がKuタンパク質との結合力に与える影響を評価する。また各末端構造をもつDNAとKuタンパク質との結合力を、ELISA等を用いて実験的に検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度GAUSSIANを用いた分子軌道計算は予想以上に時間がかかることが判明した。次年度以降より複雑なDNA末端構造を解析するためには現在の計算機では実行可能な原子規模が限られてしまい実用的ではないと考えられる。そこで次年度は通常の実験消耗品等に加え、より計算速度の速い専用計算機を導入する予定である。
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