研究課題/領域番号 |
24510078
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
藤本 浩文 国立感染症研究所, 品質保証・管理部, 主任研究官 (60373396)
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研究分担者 |
小池 学 独立行政法人放射線医学総合研究所, その他部局等, 研究員 (70280740)
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キーワード | DNA損傷修復 / DNA二本鎖切断 / Ku / DNA損傷認識 |
研究概要 |
KuはDNA2本鎖切断(DSB)末端を認識・結合し、DSB修復経路の一つであるnon- homologous end-joining過程(NHEJ)を開始するタンパク質である。DSB発生時、DNA末端の形状は平滑末端とは限らず、切断時の状況よって様々なバリエーションが考えられる。本研究では、種々の末端形状を持つDNAとKuタンパク質との相互作用を分子シミュレーションによって解析し、Kuタンパク質と各DNA末端との結合能力を実験的に確認することでKuタンパク質が認識しうるDNA末端形状の特徴を明らかにしたいと考えている。本年度は昨年度に引き続き、DSB末端のモデル化を行った。DSB発生のメカニズムとして、1本鎖切断(SSB)部位近傍の相補鎖側に別のSSBが生じる場合を想定し、5’側、もしくは3’側に突出した末端を持つDNA分子を、それぞれ突出塩基数を1~2塩基に設定し設計した。また、SSBのモデルとして用いたβ-SSB(塩基が脱落し五炭糖が開環したSSB)、およびβ-δ-SSB(塩基が五炭糖ごと脱落したSSB)と他の損傷とを組み合わせたクラスターDNA損傷モデルを作成し、損傷部位への修復酵素の結合能力の予測結果と修復酵素の実際の修復能力とを比較する事で今回設計した各SSBモデルの妥当性を検証した。次年度はこれらの突出末端構造をもつDNAとKuタンパク質の複合体を設計し、Ku-DNA間の結合力を平滑末端を挿入した場合と比較することで平滑ではない末端構造をもつDNA分子へのKuタンパク質の結合能力を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
損傷部位を含むDNA分子に対してシミュレーションを行う場合、あらかじめ分子軌道計算ソフトウエアGAUSSIAN等を用いて損傷部位周辺の電子状態を計算しておく必要がある。今回モデリングを行ったβ-SSB、およびβ-δ-SSBの5’末端側、3’末端側の各モデルにおける分子軌道計算では、開環した五炭糖等の反応の中間段階にあたる分子構造や、反応性の高い酸素やリン原子が分子末端に位置するため収束解が得にくく、初期の原子配置を変えて計算を繰り返す必要があった。また得られた計算結果が妥当かとうかを分子軌道計算以外の手法でも確認する必要があると考え、今回設計したSSBと他の損傷とを組み合わせたクラスターDNA損傷を持つDNA分子を設計し、損傷修復酵素の結合能力の予測結果と修復酵素の既報の修復能とを比較し、各SSBモデルの妥当性の検証を行ったため、当初の計画より遅れる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた各SSBモデルを含む5’側、もしくは3’側突出末端を持つDNA分子を含むKu-DNA複合体モデルを設計し、数ナノ秒レベルのMDシミュレーションを行い、Ku-DNA間の結合エネルギーを推定、これまで設計したKu-DNA複合体モデルで用いてきた5’末端側にリン酸基を持つ「奇麗な」平滑末端を持つDNA分子とKuタンパク質との結合エネルギーと比較する事で、DNAの末端形状がKuタンパク質との結合力に与える影響を評価する。また各末端構造をもつDNAとKuタンパク質との結合力を、ELISA等を用いて実験的に検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
各SSBモデルに対する分子軌道計算に時間がかかり、当初計画していた実験による検証が進まなかった代わりに、高速計算機の導入に研究費を使用した。その差額が次年度に持ち越された。 本年度、シミュレーション計算に特化した専用ワークステーションを新たに導入した。次年度はより高速な計算環境を得るため通常の実験消耗品等に加え、ワークステーションのアップグレードを行う予定である。
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