研究課題/領域番号 |
24510080
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
高橋 規郎 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線影響研究所, 顧問 (40333546)
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研究分担者 |
大石 和佳 公益財団法人放射線影響研究所, 広島臨床研究部, 部長 (20393423)
丹羽 保晴 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線生物学/分子疫学部, 副主任研究員 (40284286)
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キーワード | 放射線影響 / 循環器疾患 / 動物実験 |
研究概要 |
原爆被爆者等の放射線被曝したヒトを対象とした疫学調査は心血管系疾患のリスクが被曝線量に相関して上昇することを示唆している。この事象が放射線の直接的作用なのかが明確ではないので、動物をモデルとした実験で検証する必要がある。検証を行うと共にその作用機序を明らかにするために本研究計画は作成された。動物実験は研究計画に従い実施した。より高線量の放射線(1、2、4Gy)を照射した脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(以下、SHRSP)を用いた動物実験では、放射線照射したラットの寿命は非照射対照のラットに比べ有意に短縮していた。また、照射ラットでは非照射群に比べて、組織の損傷の重篤度に顕著なる昂進が認められた。そこで平成24年度から平成25年度にかけて、低線量(0.25、0.5、0.75Gy)放射線を照射したラットを用いて、上記実験で用いたものと同様な手順、すなわち1;脳卒中様症状を呈した時期を指標とするSHRSPを用いた実験(SHRSP-1)、2;主に病理検索を実施するための実験(SHRSP-2)を、各群20匹で行った。 SHRSP-1の結果は、照射群の全て(0.25Gyにおいても)のラットが脳卒中様症状を呈した時期は非照射群に比べて有意に昂進していた。SHRSP-2については、環境科学技術研究所において現在病理形態学的検査を実施中である。 SHRSPを用いた実験が予定より順調に進んだので、平成26年度に予定していた、SHRの研究≪高血圧症自然発症ラット(以下SHR)に異なった線量(1、2、4Gy)を照射した後、各群の血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関しているかを調べる研究≫のための予備実験を実施できた。4Gy照射したSHRおよびコントロールとした非照射のラットを比べた。測定は血圧値、体重を週一回の割合で、25週齢(照射後20週間後)まで行った。4Gy照射したラットの収縮期血圧値は非照射SHRに比べて高い傾向が認められた。また、被曝群で有意な体重の減少が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高線量放射線(1、2および4Gy)を照射したSHRSPを用いた寿命調査および病理学的詮索では、当初予定していた規模より少数の匹数で、非照射群に比べ照射群では顕著な違いを観測することができた。そこで、平成24年度より平成25年度にかけて、脳卒中様症状が観察される時期を指標として、比較的低線量(0.25、0.5および0.75Gy)の放射線を照射したラットで放射線の影響を調べる実験を開始することができた。症状が現れる時期はすべての照射群(0.25~0.75Gy)で、非照射ラットに比べて有意に早まっていることが確認出来た。実験の過程で得られた臓器の病理形態学的検査を現在実施中である。 SHRSPの実験結果を予想以上に早期に得ることが出来たので、放射線照射したSHRの血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関しているかを調べる研究を開始するための予備実験を行い、良好な結果を得ることが出来た。更に、この系を用いて本格調査を実施中である。実験自体は終了し、病理形態学的検査による放射線による心血管系病変の発生機序の解明と統計解析を実施中である。このように現在までは計画は予想以上に順調に推移している。今後の研究の進展も順調に行くものと考えている。 計画以上に順調に研究が進捗しているのも、広島大学の協力により、当初より広いラットの飼育に使用できるスペースの提供を受けることが出来、動物実験の効率が向上したためである。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様な進捗状況より、SHRSP-1およびSHRSP-2の実験自身は想定より早く終了した。今後、脳卒中様症状時期の昂進と線量の関係、病理学的検索により得られた各臓器における病変の重篤度と線量の相関に関し統計解析を行い、結論を得たい。 もう一つの課題である血圧の上昇に対する放射線の寄与を調べる研究に関しては、少数の匹数(各4匹)の4Gy照射群と0Gyコントロール群を用いた予備実験の結果より、SHRを用いた系が今回の研究に有効であることが実証できた。そこで、SHRに異なった線量(0.5、1、2、4Gyおよびコントロールとして0Gy)を照射した後、各群の血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関しているかを調べているところである。更に、SHRSPおよびSHRの両ストレインから得られた血液中のバイオマーカーを測定することによりその変化と線量の相関を調べる。これらの結果を総合して、放射線量と脳卒中の発症時期、血圧値、バイオマーカー、組織形態学的変化といった指標との関連を統計解析する。これを基に、放射線と循環器疾患との相関およびその発生の機序を考察する。更に、本研究より得られた結果が被爆者を中心としたヒト集団より得られた疫学データに適応可能か否かを考察する。さらに、動物実験の結果が原子力関連施設労働者、今回の原発事故で被曝した人々にも広く適応されるかを考察する。この結果は、彼等の福祉向上のために貢献できるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定したより少数のラットで有意な結果が出たので、その分の予算が浮いた。実験に必要な施設の使用料などにつき、大幅な経費の節減ができた。 測定するバイオマーカーの検査数を増やして、より微小な違いを精度良く観察できるようにすることにより、放射線により循環器疾患が、どのような機序で生じるのかを詳細に調べる。更に、より多くの情報を得るために、測定するバイオマーカーの種類を増やすための資金とする。
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