研究課題/領域番号 |
24510080
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
高橋 規郎 公益財団法人放射線影響研究所, 顧問 (40333546)
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研究分担者 |
大石 和佳 公益財団法人放射線影響研究所, 広島臨床研究部, 部長 (20393423)
丹羽 保晴 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線生物学/分子疫学部, 副主任研究員 (40284286)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線影響 / 循環器疾患 / 動物実験 |
研究実績の概要 |
原爆被爆者等の放射線被曝したヒトを対象とした疫学調査は心血管系疾患のリスクが被曝線量に相関して上昇することを示唆している。この事象が放射線の直接的作用なのかが明確ではないので、動物をモデルとした実験で検証する必要がある。そこで、検証を行うことを主目的として、また、その作用機序を明らかにするために本研究計画は作成された。実験は研究計画に従い実施された。高線量の放射線(1、2、4Gy)を照射した脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(以下、SHRSP)を用いた実験では、照射したラットの寿命は非照射対照より有意に短縮していた。また、照射群では非照射群に比べ、脳出血、心筋炎、心筋繊維症、腎臓の動脈周囲炎等の重篤度に顕著なる亢進が認められた。そこで、低線量(0.25、0.5、0.75Gy)放射線を照射したラットを用いた実験を行った。1Gy以上照射したラットの実験と同様に、①脳卒中様症状を呈した時期を指標とするSHRSP実験(SHRSP-1)、②病理検索および血液バイオマーカーを測定するための実験(SHRSP-2)を行った。各線量群の匹数は各20匹である。SHRSP-1では、照射したラットのすべての群(0.25Gyにおいても)で、脳卒中様症状を呈した時期は非照射群に比べて有意に亢進していた。また、照射群では非照射群に比べて寿命の短縮が観察された。SHRSP-2では、数種の病理学的変化について線量効果が認められた。更に、本態性高血圧症ラット(以下SHR)に異なった線量(1、2、4Gy)を照射した後、各群の血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関しているかを調べた。1、2、4Gy照射したSHR(各群10匹)およびコントロールとした非照射のラット(10匹)を用いた。測定は血圧値、体重を週一回の割合で、35週齢(照射後30週間後)まで行った。照射したラットの収縮期血圧値は照射線量に従い上昇した。また、体重増加にも、線量効果が観察された。数種の血液バイオマーカーにおいて、線量に伴う増減が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去3年間において、①高線量放射線(1、2および4Gy)を照射したSHRSPを用いた寿命調査および病理学的詮索では、非照射群に比べ照射群では顕著な違いが観察できた。②比較的低線量(0.25、0.5および0.75Gy)の放射線を照射したSHRSPを用いて、脳卒中様症状の発症時期を指標とした調査を行ったところ、症状が現れる時期はすべての照射群(0.25~0.75Gy)で、非照射ラットに比べて有意に早まっていることが確認出来た。それに伴い、寿命も線量が上昇するにつれて、短縮していることが観察された。③放射線(1、2および4Gy)照射したSHRを対象として、血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関しているかを調べる研究を行ったところ、収縮期血圧値は線量の増加に比例して高値を示した。体重にも線量効果が観察された。数種の血液バイオマーカーは線量の増加に伴い、減少したり増加したりするものが認められた。このように、我々の研究はおおむね順調に推移している。これらのデータに基づき、放射線がいかにして循環器疾患を引き起こすかといった、作用機序の解明に取りかかったところである。 順調に研究が進捗しているのも、広島大学の協力により、当初より広いラットの飼育に使用できるスペースの提供を受けることが出来、動物実験の効率が向上したためである。
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今後の研究の推進方策 |
SHRSPを用いた研究では、照射線量と脳卒中様症状の発症時期および寿命が相関することが判った。もう一つの課題である血圧の上昇に対する放射線の寄与を調べる研究に関しても、血圧値の上昇曲線の形の違いが被曝線量に相関していることが判明した。更に、照射線量が、SHRの体重に影響するという事実を得ることができた。SHRSPおよびSHRの両ストレインから、これらの実験を通じて得られた血液のバイオマーカーを測定したところ、一部の指標では線量効果があることが判明した。放射線量と脳卒中の発症時期、血圧値、バイオマーカー、組織形態学的変化といった指標との関連を統計的に解析している。今後は、更に測定するバイオマーカーの種類を増やす予定である。 一方、オミックス解析のような新しい技法の最近の進歩には目を見張るものがある。それらを導入して、既に得られている血液試料を解析することを考えている。これらの結果と、既に得られている結果を総合して、放射線と循環器疾患との相関およびその発生の機序を考察する。 更に、本研究より得られた結果が被爆者を中心としたヒト集団より得られた疫学データに適応可能か否かを考察するとともに、動物実験の結果が原子力関連施設労働者、今回の原発事故で被曝した人々にも広く適応されるかを考察する。これらの試みは、彼等の福祉向上のために貢献できるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
広島大学・原爆放射線医科学研究所の共同研究に採択されたので、同大学で実施中のラットの飼育・管理費が全額補助された。解剖検体の環境科学技術研究所への送付方法を改善し経費が節減できた。一部の血液バイオマーカーに関しては、各実験シリーズ終了後に別々に測定し、一定の結果を得た。しかし、その他のマーカーに関しては、各照射線量群間を比較するためには、一斉に実施することが必須であることが判明した。試料の集積が完了したので、測定を開始した。このため一部の試薬の購入が来年度までずれ込んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度測定できなかったバイオマーカーの測定試薬を購入するとともに、技術員の人件費にあてる。また、メタボロー解析が、本実験の目的の追行には有用であることが判ったので、液体クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせた手技を用いた実験を行う。この結果やバイオマーカーの変化を総合して、放射線によりどのような機序で循環器疾患が生じるかを解明する。その結果を学会で発表する。
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