本申請課題は、化学物質が視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸及び視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸に及ぼす影響の作用機序を分子レベルで明らかにし、内分泌かく乱作用の試験評価システムを確立することが目的である。HPA及びHPT軸において中心的な役割を果たす遺伝子群に注目し、モデル動物としてツメガエルを用いて、以下の研究を遂行した。1)ツメガエル変態アッセイを用いた化学物質の甲状腺かく乱作用評価:甲状腺ホルモン合成阻害剤であるメチマゾール、強力なアゴニストであるTRIAC、PPCPsの候補である医薬品や臭素系難燃剤をトランスジェニックガエル幼生に暴露し、さまざまエンドポイントで評価した。これにより、甲状腺かく乱作用評価のプロトコール確立のための諸条件を検討することができた。2)種々のホルモンに応答しレポーター遺伝子を発現するレポーターコンストラクト及び胚への導入(トランスジェネシス)を行った。加えて、化学物質のエピジェネティクスへの影響を評価するため、ヒストン修飾の変動をin vivoで可視化することが可能なトランスジェニックガエルを作製した。3)ネッタイツメガエルゲノムデータを用いたインシリコ解析により、核内受容体が直接制御する遺伝子群を予測した。さらに、甲状腺ホルモン合成阻害剤存在下でT3に暴露した幼生のトランスクリプトームを解析した。既知の甲状腺ホルモン応答遺伝子に加え、ホルモンの代謝に関連する遺伝子群、炎症や造血に重要な遺伝子等を含む新規の応答遺伝子を多数同定した。4)3)で行ったトランスクリプトーム解析により同定した甲状腺ホルモン応答遺伝子の化学物質(甲状腺ホルモン受容体アゴニストや臭素系難燃剤)に対する影響を解析した。 以上の成果は、HPA及びHPT軸かく乱による生体影響を評価する上で重要な知見やマーカーとなることが期待される。最終年度は、2)~4)を中心に行った。今後は、得られた知見や成果を論文化する予定である。
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