研究課題/領域番号 |
24510084
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
伊吹 裕子 静岡県立大学, 環境科学研究所, 准教授 (30236781)
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研究分担者 |
豊岡 達士 静岡県立大学, 環境科学研究所, 助教 (40423842)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ヒストン / 紫外線 / アセチル化 / リン酸化 / エピジェネティクス / DNA損傷 / クロマチン |
研究概要 |
本研究は、環境化学物質によるヒストン修飾変化が、紫外線によるDNA損傷修復に影響するのか否かを明らかにし、近年の皮膚がん増加の原因解明に貢献することを目的としている。本年度は、これまでに明らかにした環境化学物質によるヒストン修飾変化に関するデータをさらに蓄積するため、幾つかの化学物質や物理的因子によるヒストン修飾変化を検討した。 DNA損傷を誘導する因子であるH2O2や短波長紫外線では、作用後早い時間からH2AX(S139)リン酸化が検出されたが、H3(S10)のリン酸化やH3(global)アセチル化は認められなかった。たばこ煙中に存在する発がん物質であるNNKは、DNA付加体を誘導するのに代謝が必要とされるためH2AX(S139)リン酸化の誘導はホルムアルデヒド等と比較すると遅れて観察された。また、エストラジオール作用ではH2AX(S139)リン酸化は検出されなかったが、後半の時間帯にH3(global)アセチル化とH3(S10)のリン酸化が確認された。このアセチル化の上昇は、クロマチン構造変化による遺伝子発現制御や、DNA損傷修復におけるクロマチン構造の弛緩の必要性から重要であると考えられた。 既にホルムアルデヒド作用により顕著なヒストンH3(S10)のリン酸化が誘導されることを明らかにしていたので、ヒストンH3(S10)リン酸化部位に対するクロマチン免疫沈降法(ChIP)により、前がん遺伝子(c-fos, c-jun) 発現制御を検討した。その結果、c-fos, c-junプロモーター領域でH3 (S10)のリン酸化は上昇した。これらの結果から、ホルムアルデヒドは、H2AX(S139)リン酸化を誘導することより、DNAに傷をつける発がんイニシエーターであること、同時にH3(S10)リン酸化誘導を介して発がんプロモーターとして働く可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでに明らかにした環境化学物質によるヒストン修飾変化に関するデータをさらに蓄積するため、幾つかの化学物質や物理的因子によるヒストン修飾変化を検討した。H2O2、短、長波長紫外線、NNK等の新規化学物質のヒストン修飾についてそのパターンを明らかにすることができたが、当初の予定では、さらに多種の化学物質によるヒストン修飾パターンを明らかにする予定であった。化学物質の性質によるヒストン修飾パターンを系統化することが重要と考えるので、次年度もさらに他の環境化学物質によるヒストン修飾変化に関するデータを蓄積するための実験を継続していく予定である。また、ヒストン修飾の局在について検討を行ったが、H2AX(S139)リン酸化とH3(S10) のリン酸化は局在が異なることは明らかにできたが、時間依存的なフォーカスの変化等、未だ解明できなった点が多く、来年度も継続して検討を行う。 ヒストン修飾に伴う遺伝子発現変化として、ヒストンH3(S10)リン酸化部位に対する前がん遺伝子発現制御を明らかにした。この点は、当初の予定を達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、下記の予定で研究を行う予定である。 1. 本年度に続き、環境化学物質によるヒストン修飾パターンを調べる。化学物質の性質によるヒストン修飾パターンを系統化することを目的とし、より多種の化学物質についてデータを蓄積するための実験を継続していく。 2. ヒストン修飾の局在を時間依存的に確認する。H2AX(S139)リン酸化とH3(S10) のリン酸化は局在が異なることは明らかにできたが、時間依存的なフォーカスの変化等、解明できなった。時間依存的な変化やクロマチン構造変化を示すHP-1やヒストンH3のメチル化を指標に検討を行う。 3. 化学物質によるヒストン修飾およびDNA損傷修復をin vivoで確認する。これまでの検討で明らかになった培養細胞における化学物質誘導ヒストン修飾変化が、マウス皮膚でも同様に引き起こされるかどうかを検討する。 4. 化学物質によるヒストン修飾時のDNA損傷修復率の変化を検討する。これまでの研究で、化学物質によるヒストン修飾はDNA損傷修復率を変化させると予想している。これまでに得られた成果から、アセチル化はクロマチン構造を変化させることが明らかであるので、アセチル化を誘導する化学物質を中心に選択し、DNA損傷修復率の測定を行う。DNA損傷の誘導には紫外線(UVB)を照射し、その後のシクロブタン型ピリミジンダイマーおよび6-4光産物量をELISA法により定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度、後期に病気入院し、一部ヒストン修飾の解析ができなかったことから、抗体使用量が予想より少なかった。また、ウエスタンブロットや免疫染色時の方法を工夫し抗体の使用量を極力減らしたため、昨年までに購入したもので一部を賄うことができた。入院のためできなかった研究は、次年度に継続して行うため、その分の研究費は次年度に使用する。また、実験方法の工夫による余剰分を使って、さらに多くの化学物質の検討を試みる。 次年度は、研究費のほとんどを消耗品購入に充てる。また、動物を使った試験を導入するための予備的な実験を行う必要があり、動物購入に相応の研究費を使用する予定である。また、日本、オーストラリアで行われる光生物学会、日本毒性学会、日本変異原学会等に参加し、本年度の成果を発表することを予定しており、それらの旅費の一部に充てることを予定している。
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