研究課題/領域番号 |
24510084
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
伊吹 裕子 静岡県立大学, 環境科学研究所, 准教授 (30236781)
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研究分担者 |
豊岡 達士 静岡県立大学, 環境科学研究所, 助教 (40423842)
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キーワード | ヒストン / 紫外線 / アセチル化 / DNA損傷 / 複合暴露 / エピジェネティクス / 化学物質 / エストロゲン |
研究概要 |
本研究は、環境化学物質によるヒストン修飾変化が、紫外線によるDNA損傷修復に影響するのか否かを明らかにし、近年の皮膚がん増加の原因解明に貢献することを目的としている。本年度は、これまでに明らかにした環境化学物質によるヒストン修飾変化の中でも、エストロゲンの一種17-β-Estradiol(E2)作用によるヒストンアセチル化と、それに伴う紫外線(UV)誘導DNA損傷修復応答に焦点をあて検討した。 ヒト皮膚角化細胞HaCaTにE2を作用させヒストン修飾変化を確認したところ、作用後6時間以降に強いヒストンH3のアセチル化(Lys9、Lys14、global)が認められた。我々の先行研究において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による高アセチル化状態が、UV照射後のヌクレオチド除去修復(NER)を遅延させることを明らかにしていることから、さらにE2によるヒストンアセチル化とUVへの感受性への影響について検討した。ヒストンが高アセチル化状態になるE2作用10時間後にUVBを照射し、24時間後の細胞生存率を確認したところ、E2とUVB処理細胞ではUV単独処理に比べて有意な低下が観察された。この原因としてE2作用後のヒストンアセチル化による①DNA損傷生成の増大②DNA損傷修復の遅延、2つの可能性を考えた。そこで、E2作用後のUVB照射によるヒストンH2AXのリン酸化(γ-H2AX)の生成を確認したところ、E2とUV処理した細胞ではUV単独処理した細胞に比べてγ-H2AXの生成量は低下した。γ-H2AXはDNA損傷修復に関与していることが知られており、E2処理によるヒストンのアセチル化がDNA損傷の修復率に変化を与えることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、これまでに種々の環境化学物質や環境因子によるヒストン修飾変化に関するデータを蓄積してきた。本年度は、その中で、ヒストンを高アセチル化することが示された17-β-Estradiol(E2)作用時の紫外線感受性について検討した。その結果、E2によるヒストン修飾変化が、紫外線によるDNA損傷修復に影響する可能性が示された。この事象は、化学物質と紫外線の複合暴露が、単独作用とは異なる影響を与えることを示すものであり、近年の皮膚がん増加に対して、化学物質と紫外線の複合暴露影響からアプローチする本研究においては大きな成果であると考えられる。また、これまで我々が明らかにしてきたヒストンのアセチル化とDNA損傷修復の変化の関連性を強く示唆するものである。以上の成果の再確認、また、その他の化学物質での検討は現在継続して行っている。 一方、本年度は、in vivoで種々の環境化学物質によるヒストン修飾変化を確認することを予定していた。in vivoの実験については、マウス皮膚組織免疫染色法を用いた予備検討を行うことはできたが本実験を行うまでには到らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、下記の予定で研究を行う予定である。 1. 本年度に続き、環境化学物質によるヒストン修飾パターンを調べる。化学物質の性質によるヒストン修飾パターンを系統化することを目的とし、より多種の化学物質についてデータを蓄積するための実験を継続していく。 2. 化学物質によるヒストン修飾およびDNA損傷修復をin vivoで確認する。これまでの検討で明らかになった培養細胞における化学物質誘導ヒストン修飾変化が、マウス皮膚でも同様に引き起こされるかどうかを検討する。本年度までの予備的検討により、実験材料や器具などは整備されている。 3. 化学物質によりヒストン修飾が誘導された際のDNA損傷修復率の変化を検討する。先行研究で、化学物質による過剰なヒストンアセチル化は、DNA損傷修復率を変化させることを明らかにしている。本年度と同様に、アセチル化を誘導する化学物質を中心に選択し、DNA損傷修復率の測定を行う。DNA損傷の誘導には紫外線(UVBまたはUVC)を照射し、その後のシクロブタン型ピリミジンダイマーおよび6-4光産物量をELISA法、ドットブロット法により定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に動物実験を行うこと、その際にこれまでの予想以上に経費が掛かることが判明したため、ウエスタンブロットや免疫染色時の方法を工夫し、抗体、その他消耗品の使用量を極力減らし節約した。一部は昨年度までに購入したもので賄うことができた。また、本年度の動物実験においては、オーストラリアの共同研究先にマウス皮膚組織サンプルの作成を依頼し、予備的実験を行ったため、動物購入に経費が掛からなかった。よって次年度使用額が生じた。 次年度は、研究費のほとんどを、実験動物の購入と消耗品購入に充てる。本年度まで継続して行ってきた環境化学物質によるヒストン修飾パターンを調べるためのルーチンの抗体購入と、化学物質によるヒストン修飾およびDNA損傷修復をin vivoで確認するための実験動物の購入、組織免疫染色のための消耗品の購入が主である。また、光医学光生物学会、日本変異原学会等に参加し、本年度の成果を発表することを予定しており、それらの旅費の一部に充てることを予定している。
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