本研究は、環境化学物質によるヒストン修飾変化が、紫外線誘導DNA損傷の生成、修復に影響するのか否かを検討し、近年の皮膚がん増加における化学物質と紫外線の複合暴露の寄与を明らかにすることを目的としている。研究期間中に、たばこ煙、ホルムアルデヒド、金属粒子など、各種化学物質を培養細胞に作用すると、ヒストンのアセチル化、リン酸化状態がダイナミックに変化すること、そのパターンは化学物質の種類に応じて異なることを明らかにした。特に、17-β-Estradiol(E2)作用は、顕著なヒストンアセチル化、リン酸化を示した。また、それらヒストン修飾が変化している状態で紫外線(UV)を照射すると細胞死が増加した。紫外線誘導細胞死の主原因は、UV特異的なDNA損傷であるサイクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)や6-4光産物の生成であるが、E2作用後ヒストンが高アセチル化状態でUVを照射すると、CPDの修復が抑制された。また、CPDの修復に伴って誘導されるDNA二本鎖切断(DSBs)を、電気泳動法やヒストンH2AXのリン酸化(γ-H2AX)の生成を確認したところ、E2処理した細胞ではDSBsの生成量が低下し、それに伴ってγ-H2AXの誘導は低下した。これらの結果は、E2処理によるヒストンのアセチル化がDNA損傷の修復率に変化を与える可能性が示唆していた。E2以外にもヒストンのアセチル化を誘導する化学物質が存在することから、それら化学物質と紫外線の複合曝露時のDNA損傷修復と発がんへの寄与の検証の必要性が示された。 一方、これまでに明らかにしてきた化学物資によるヒストン修飾が、in vivoにおいて同様に引き起こされることを確認するために、マウス皮膚細胞を用いて検討を行った。組織免疫染色の条件などを検討し、一部のヒストン修飾について組織免疫染色可能であることを明らかにした。
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