研究課題/領域番号 |
24510085
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
立花 研 東京理科大学, 薬学部, 助教 (10400540)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トキシコロジー / DNAメチル化 / 環境 / 衛生 / エピジェネティクス |
研究概要 |
我々はこれまでに、胎仔期にディーゼル排ガス(DE)の曝露を受けたマウスのDNAメチル化状態を網羅的に解析し、DE胎仔期曝露によってDNAメチル化パターンの形成が大きく乱されることを明らかとした。本研究では、脳神経系の発達の要である神経幹細胞を対象とし、DEあるいは排ガス中のナノサイズの粒子によりもたらされるDNAメチル化の変化と神経幹細胞の遺伝的・機能的異常との関連を明らかとすることを目的としている。 妊娠マウスにDEを曝露した後、新生仔(1日齢)から脳を採取し、神経幹細胞培養用の培地を用いて培養を行った。神経幹細胞マーカーに対する免疫染色を行い、得られた細胞中に占める神経幹細胞の割合を調べたところ、90%以上の細胞に神経幹細胞マーカーの発現が認められた。また、得られた神経幹細胞に対し、血清を用いて分化誘導したところ、神経細胞、グリア細胞等のマーカーの発現量が上昇し、多分化能を有していることが確認できた。以上から、解析に十分な純度の神経幹細胞が得られたと考えられる。 得られた神経幹細胞からゲノムDNAおよびmRNA、microRNAを含むtotal RNAを抽出・精製した。ゲノムDNAを用いてY染色体上のSRY遺伝子に対するPCRを行うことで、得られた神経幹細胞の雌雄を判定した。仔に生じる影響を雌雄間で比較するため、性別ごとにサンプルをプールし、解析に供することとした。ゲノムDNAから、メチル化DNA免疫沈降法を用いてメチル化DNAを特異的に回収し、得られたメチル化DNAの増幅およびマイクロアレイを用いたDNAメチル化状態の網羅的解析を進めているところである。また、得られたtotal RNAについては、マイクロアレイを用いてmRNA発現およびmicroRNA発現の解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、ディーゼル排ガスの胎仔期曝露および新生仔からの神経幹細胞の単離・培養を行い、解析用のゲノムDNA、Total RNAを得ることができた。新生仔の雌雄別に解析を行うことにしたため、各個体から別々に神経幹細胞を単離・培養を行い、サンプルを得ることにした。このため、神経幹細胞の単離・培養およびサンプルの回収に予想以上の時間を要したが、現在、得られたゲノムDNAを用いたメチル化状態の網羅的解析、mRNAおよびmicroRNAの発現解析が進行中である。また、神経幹細胞に分化を誘導する実験条件を検討し、血清を用いて神経細胞、グリア細胞、オリゴデンドロサイト等に分化を誘導することが可能となった。 以上より、当初の研究計画から若干の遅れはあるものの、研究の遂行に必要な実験系は十分に確立され、DNAメチル化状態、mRNAおよびmicroRNA発現の解析も進行しており、実験を計画したとおりに遂行できる状況である。研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
DNAメチル化解析で得られた結果から、クラスター解析や、当研究室で開発されたメッシュターム法等により、影響を受けやすい遺伝子群・DNA領域等を特定する。神経幹細胞を、血清を用いて神経幹細胞に分化を誘導した後、各種神経系細胞のマーカーに対する免疫染色を行い、分化後の各種神経系細胞の存在比(各種神経系細胞への分化のされやすさ)を明らかにする。免疫染色後の各種神経系の細胞は、レーザーマイクロダイセクションを用いて細胞種ごとに分取し、以後の解析に供する。各種神経系細胞からmRNAおよびmicroRNAを抽出し、マイクロアレイ解析、定量的RT-PCRを行い、ディーゼル排ガス曝露による発現パターンの変動を明らかにする。特に、各種神経系細胞のうち分化の割合が大きく変化した細胞種に注目する。神経幹細胞と各種神経系細胞におけるmRNA・microRNAの発現プロファイルを比較し、ディーゼル排ガスの曝露により生じる神経系細胞への分化に対する影響と、それに関与するmRNA 、microRNAを同定する。また、DNAメチル化パターンとの相関を調べ、変動が見出されたmRNA、microRNAのうち、DNAメチル化により発現量が制御されるRNAを同定する。見出されたmRNA、microRNAについて、神経幹細胞に過剰発現あるいは機能阻害を行った後、分化誘導することで、神経幹細胞から各種神経系細胞への分化に与える影響を解析する。また、分化誘導後の各種神経系細胞におけるmRNA、microRNAの発現量の解析を進めることで、ディーゼル排ガス胎仔期曝露により仔の神経系細胞に生じる機能変化との関連について解析を行う。 以上の解析から、ディーゼル排ガスの胎仔期曝露により、仔の脳において生じるDNAメチル化パターンの変化・遺伝子発現変動と脳機能障害との関連について検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在まで研究費は研究計画にしたがって使用している。収支状況報告書において次年度使用額として計上した研究費は、使用後に残った小額の研究費であるため、単独では必要な試薬類の購入に使用しにくい。次年度使用する予定の研究費と合わせることで有効に使用し、当初の計画にしたがって適正に使用する予定である。
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