研究課題/領域番号 |
24510091
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
荷方 稔之 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30272222)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 走化性 / Stenotrophomonas / maltophilia / フェノール / クロロフェノール |
研究実績の概要 |
S.maltophiliaはフェノールや内分泌撹乱性が疑われるビスフェノールAなどのフェノール類化合物に走性を示す。これらを感知するセンサータンパク質をコードする遺伝子を同定することで新規検出システムや効率的なバイオレメディエーションへの応用が期待できる。そこで本研究では,まずS. maltophilia の合成培地を新規調製し,これを用いることでより良好な運動性を保持した高感度な走化性測定を実現できることを示した。その上で走性センサー遺伝子の破壊株を作製し、フェノールおよびp-クロロフェノールの感知に関与する走化性センサー遺伝子の同定を試みた。 メチオニン,セリン,バリンの3種のアミノ酸をポリペプトンの代わりに混合添加することにより,従来用いていた半合成培地と同程度に増殖し,かつ高い運動性を保持する合成培地を調製した。この合成培地を用いたS. maltophiliaのp-クロロフェノールに対する走性(比集積初速度7.8cells/sec・OD660)は,従来の培地を用いた場合(4.8cells/sec・OD660)と比べて63%向上し,感度および再現性の高い測定を行うことが可能となった。 新規合成培地で調製したS. maltophiliaは2.0mMフェノールに対し弱い集積応答(3.3cells/sec・OD660)を示したが、走性センサー遺伝子mcp5の破壊株では応答が消失した。このことからmcp5はフェノールを感知する唯一の走性センサー遺伝子であることが示唆された。またmcp6破壊株のp-クロロフェノールに対する応答およびmcp5,11二重破壊株の応答は、野生株のそれに比べてそれぞれ15%、87%減少した。しかしmcp11単独破壊株の応答は野生株と同程度であったことからp-クロロフェノールの感知にはMCP5とMCP6が主に関与していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
S. maltophilia が有する12の走化性センサー遺伝子を網羅的に解析するにあたり,H26年度には新たに1つの遺伝子破壊株を作成し,1つの走化性センサー遺伝子が感知する化学物質の同定に成功した。H24年度からの結果と合わせると,12のうち8つのセンサー遺伝子の破壊株作成と4つの走化性センサー遺伝子の同定に成功しており,昨年度からも着実に成果が得られている。しかしながら1種類の化学物質が複数の走化性センサーで感知される場合,単独の破壊株の応答にはほとんど差異が観察されない現象が起こることが明らかとなり,この場合には複数の走化性センサー遺伝子の多重破壊株の作成が必要となり,走化性センサー遺伝子の網羅的な同定に多少の遅れが生じているが,破壊株の作成を進めながらさらなる研究を遂行していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでリン酸イオンをはじめフェノールの感知に関与する遺伝子の同定に成功しているが,今後はS. maltophilia における走化性の特徴であるビスフェノールAを感知する走化性センサー遺伝子の同定を優先的に行っていく。まずは未作製の単独遺伝子破壊株を作成し,ビスフェノールAの応答を比較検討し,必要ならば多重破壊株の作成も含めてビスフェノールAの応答に関与する単独または複数の走化性センサー遺伝子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Stenotrophomonas maltophiliaのビスフェノールA走性センサー遺伝子を単離するために,その遺伝子を破壊した変異株を用いた走性応答を測定しているが,未だ当該遺伝子の特定には至っていない。この理由として,ビスフェノールA等の化学物質を感知する走化性センサーが複数存在すると,単独の遺伝子破壊株では残りの遺伝子の発現により表現型の差異が現れない現象が観察されたためと考えられ,その結果走化性センサー遺伝子の網羅的な同定に多少の遅れが生じた。このため残りの走化性センサー遺伝子の同定試験に使用する試薬およびチューブ等の消耗品費が未使用となったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き複数の遺伝子多重破壊株を作成し走性応答を測定するため,それに伴う試薬,器具等の消耗品,および論文作成に伴う印刷代等,さらには国内学会における研究発表に伴う旅費に使用する。
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