本研究では、酸化タングステンナノロッド薄膜を水熱合成法にて一段階で合成できることを見出した。XRD回折パターンより、合成された酸化タングステンナノロッドは六方晶であることが分った。また、電子顕微鏡観察から、ナノロッドは直径約50 nm、長さ約1 μmであり、基板に均一に成長していた。本合成法では形態指向剤として硫酸セシウムを用いており、XPS分析の結果から酸化タングステン結晶中にセシウムイオンが6.3 atom%取り込まれていた。また、硫酸セシウム以外のアルカリ金属硫酸塩を共存させて酸化タングステン薄膜を合成すると、ナノロッド以外の様々な形態に制御が可能であることを見出した。次に本薄膜の拡散反射スペクトルを測定した。その結果、460 nm付近に吸収端を有し可視光応答することが明らかとなった。また、そのバンドギャップは約2.72 eVと見積もられた。本薄膜の光触媒活性を向上させるために、助触媒として白金を光析出法で担持した。TEM観察からナノロッド上に白金粒子が担持されていることが確認でき、その粒径は8から15 nmであった。XPS測定により白金の化学状態を確認したところ、白金酸化物であることが分った。酸化タングステンナノロッド薄膜の光触媒活性を染料の一種であるローダミンBの脱色によって評価した。参照試料として、表面形態を制御していない酸化タングステン薄膜と酸化チタンナノロッド薄膜を合成した。これらの光触媒活性を比較したところ、酸化タングステンナノロッド薄膜の光触媒活性が最も高いことが示された。次に、酸化タングステン薄膜の再利用性の検証をおこなった。その結果、5回の連続実験においてほとんど活性は低下せず、5時間後にローダミンBをすべて脱色することができた。したがって、この酸化タングステン薄膜は再利用性を十分に持っているものと判断できた。
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