廃電池や廃プラスチックを再資源化する際、フッ素や塩素等のハロゲン元素が放出されると、設備腐食や有害物質生成の問題を引き起こす可能性がある。本研究は固液共存の不均一酸化物中へハロゲン元素が溶解する機構を解明するものであり、廃電池や廃プラスチックのリサイクル時に発生するハロゲン元素の無害化処理の確立に貢献できると考える。(1)不均一酸化物中への塩素溶解度の測定、(2)液相中への固体分散による塩素溶解促進効果の微視的機構の解明、(3)包接化合物への塩素置換との熱化学的安定性の解明、を行った。 ガス平衡法を用いてCaO-Al2O3系、CaO-SiO2系、包接化合物12CaO・7Al2O3への塩素溶解量を測定した。炉内にAr-H2-H2O-HCl混合ガスを流入し、Cl2分圧とO2分圧を制御した。酸化物を炉内に挿入し、1300℃~1500℃でガスから塩素を吸収させた。塩素の平衡濃度をJISに基づく滴定法により求めた。また、温度と水蒸気分圧を変化させ、包接化合物12CaO・7Al2O3の生成条件を明らかにした。 塩基性酸化物の固体CaOには塩素がほとんど溶解しなかったが、CaO-Al2O3系液体酸化物中に固体CaOを分散させると塩素溶解が促進された。さらに液相から包接化合物11CaO・7Al2O3・CaCl2生成すると塩素溶解度は大幅に大きくなった。一方、CaO-SiO2系では固体分散による塩素溶解の促進は観察されなかった。 包接化合物12CaO・7Al2O3は水蒸気を含む雰囲気下で安定に存在し、11CaO・7Al2O3・Ca(OH)2と表せるが、極低水蒸気分圧では3CaO・Al2O3と5CaO・3Al2O3に分解した。また、11CaO・7Al2O3・Ca(OH)2への塩素溶解は固体でも速やかに進行したが、OH-とCl-のイオン置換反応と考えられる。11CaO・7Al2O3・Ca(OH)2とCl-置換体の間に固溶体が生成したと捉え、正則溶体モデルを適用して反応を解析した結果、包接化合物中への塩素置換反応は排ガス処理に通常用いられる石灰よりも進行しやすい可能性があることが分かった。
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