研究課題/領域番号 |
24510099
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岡本 賢治 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80283969)
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キーワード | 食品廃棄物 / 生ごみ / エタノール / 担子菌 / 発酵 |
研究概要 |
これまでに、C5・C6糖発酵担子菌Trametes versicolorが各種デンプン質原料に対して良好な発酵性を示すことを確認してきたことから、学内の食堂において発生する食品廃棄物を対象にした発酵試験を行った。この時、窒素源は無添加で、pH調整もなしという条件とした。その結果、経日的に固形物(主にデンプン)の分解が観察されるとともに、含有する糖に対して7割程度の収率でエタノールへ変換していた。 次に、エタノール生産のスケールアップのため、まず、可溶性デンプンを基質としてジャーファーメンター(2L)による大量培養条件の検討を重ねた結果、DOやpHのコントロールをすることなく、フラスコでの培養に近い収率でのエタノール生産が可能となった。さらに、培地容量を5Lに増やした場合でも同様の収率を得た。また、基質をとうもろこしや米に由来するデンプンに変えても特に収率が低下するなどの影響はみられなかった。そこで、食品廃棄物を原料としたリアクターでの発酵試験を行ったところ、糖化酵素や窒素源を加えていないにもかかわらず、比較的良好な収率でのエタノールへの直接的変換を認めた。 一方、多様な糖質に対して発酵性を有するT. versicolorのデンプン発酵に関わる遺伝子について、HiCEP法による発現プロファイリング解析を進めている。これまでのところ、デンプン発酵の際、各種糖質加水分解酵素遺伝子以外に、GPIアンカータンパク質と相同性のある複数の遺伝子が高発現する傾向を示したことから、これらがT. versicolorに特徴的なデンプン発酵に寄与しているのではないかと推測している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食品廃棄物からのエネルギー生産を想定した場合、用いる担子菌においては多様な糖質に対して発酵性を有するとともに、複雑な混合原料から成る食品廃棄物に対しても適応可能であることが求められる。そこで、食堂において発生する生ごみを対象としたT. versicolor野生株の発酵適性について検討を行った。その結果、T. versicolorにおいては、これまでの各種デンプン質原料(コーン、ポテト、米、小麦由来のデンプンのみならず、消費期限切れの麺類など)と同様、比較的良好な収率でエタノールへの直接変換が可能であった。また、これまでのフラスコでの検討から、リアクターへのスケールアップもほぼ順調に進めてきている。このようなT. versicolorの稀な特性は食品廃棄物の利活用を推進する上で有望である。一方、発酵に関わる遺伝子の発現解析においても、既報の微生物にはない興味深い傾向が示唆されている。当初のタイムスケジュールから多少前後した部分があるものの、計画内の課題に着手し、興味深い成果をいくつか得るに至っていることから、上述の達成度と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
食品廃棄物をエネルギー資源として着目し、C5・C6糖を高収率で発酵可能な担子菌を用いた食品廃棄物から直接的にエタノールを生産する技術の基盤を構築する。昨年までの検討で、T. versicolor野生株がデンプンならびに実際の食品廃棄物から比較的良好な収率でエタノールを生産すること、その際に糖質加水分解酵素以外のいくつかの遺伝子が関与していることなどを新たに認めた。今後、当該担子菌による食品廃棄物を中心とするバイオマスからのエタノール生産のためのより詳細な発酵条件の設定へつなげる。具体的には、(1)担子菌の発酵時の特異的発現遺伝子の解析、(2)各種条件(pH、塩濃度、脂質含量など)変化が及ぼす発酵への影響、(3)生ごみと他バイオマス混在化での発酵、(4)最適発酵条件の設定等に取り組む予定である。以上の検討を通して、これまで未解明であった担子菌に潜在する発酵能力を掘り起こし活用した、食品廃棄物の効率的なリサイクルシステムの確立を目指す。
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