研究課題/領域番号 |
24510106
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
今林 慎一郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50251757)
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キーワード | 水溶性セレン / 電極還元反応 / メディエーター / プロトン共役電子移動 / セレン回収 |
研究概要 |
回転リングディスク電極を用いた測定により、MVが電極から電解質中に溶解している亜セレン酸への電子移動においてメディエーターとして作用していることを明らかにした。亜セレン酸から元素態セレンへの還元がステップワイズに進行すると仮定してボルタモグラムのシミュレーションを行った結果、MVと亜セレン酸の反応速度が10,000~100,000 dm3 mol-1 s-1程度と見積もられた。中性域において亜セレン酸は酸塩基平衡(pKa = 7.3)に従ってHSeO3-あるいはSeO32-の形で存在するが、後者は電気化学的に不活性であることを示した。緩衝液の共役酸がH+供給源であることを考えると、亜セレン酸および緩衝液のpKaより酸性域において電解することが本還元反応によるセレンの除去、回収のために重要であることを明らかにした。 MV以外にメディエータとして働く物質をビオロゲン化合物、キノン化合物、フェナジン化合物から探索し、6化合物を抽出した。これら化合物の触媒電流は酸化還元式量電位が負であるほど比例的に増大することがわかった。 フローセルを用いた検討から、亜セレン酸還元率は反応溶液のフロー速度、亜セレン酸濃度が大きいほど低下することがわかった。反応後に残留している亜セレン酸濃度測定から、条件を選ぶことで90%以上の還元率を達成できることを示した。 セレン酸還元菌を用いた生物学的回収方法で生成する気化セレン化合物は主としてジメチルジセレニド(DMDSe)である。硝酸にトラップされたときのDMDSeの反応について、電気化学的に考察した。DMDSeのボルタモグラムは硝酸投入後、時間と共に変化するが20分程度で一定になり、反応が終了した。このときのボルタモグラムはDMDSeはメチルセレニン酸(MSA)のボルタモグラムと一致せず、報告されているMSAとは異なる物質に変化している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
亜セレン酸の還元反応については、(1)回転リングディスク電極測定によりMVが電極から亜セレン酸への電子移動のメディエーターとして作用していること、(2)ボルタモグラムのシミュレーションよりMVと亜セレン酸の反応速度を見積もったこと、(3)中性域において電気化学的に活性な亜セレン酸がHSeO3-であることを示し、電気化学測定はほぼ終わった。しかし、亜セレン酸の還元反応解析が長引いたため、セレン酸の還元反応の解析が平成26年度に先送りになった。 本電極還元反応系をセレン回収プロセスに発展できる可能性については、フローセルを用いた検討から反応溶液のフロー速度、亜セレン酸濃度などの条件を選ぶことで90%以上の亜セレン酸還元率を達成できることを示した。また、MV以外のメディエータとして働く物質として6種の化合物を抽出し、触媒電流が酸化還元式量電位が負であるほど比例的に増大することを示した。 生物学的回収方法を補完する電極反応系の構築については、主たる気化セレン化合物であるジメチルジセレニド(DMDSe)が硝酸トラップ溶液中に20分程度まで反応して他の化合物に変化すること、報告されているメチルセレニン酸以外の物質が反応生成物である可能性を示したが、反応後のセレン化合物の同定には至っていない。 以上のように、本研究の電極還元反応系をセレン回収プロセスに発展できる可能性、生物学的回収方法を補完する電極反応系の構築については若干研究が遅れているため、上記の達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
【MVをメディエータとする水溶性セレンの電極還元反応機構の解明】 亜セレン酸還元反応の電気化学測定はほぼ終わっており、得られたデータの定量的な解析やボルタモグラムのディジタルシミュレーションによって、確度の高い反応機構の提案や反応速度定数などの数値化を行う。セレン酸の還元反応については、亜セレン酸の反応機構解析で得られた知見を基に、効率的に解析する。これまで起こらないと報告されているセレン酸の電極還元がMV添加で可能になる理由を明らかにする。 【メディエータ型電極還元反応系をセレン回収プロセスで用い得る可能性とそのための課題】 本還元反応による水溶性セレン除去、元素態セレン回収の効率など実用面について、フローセル、バッチセルを併用して、電極材質および形状(多孔体、炭素繊維など)、水溶性セレンの初期濃度などをパラメータとして検討する。また、電極反応に必要な電解質として、水溶性セレン含有排液中に含まれるイオン成分の利用、シリカゲル微粒子に固定化された固体酸(再利用が可能)の利用について検討する。さらに、亜セレン酸還元反応の妨害になりうる排液中に含まれる物質(水溶性セレン以外)を排液成分の分析データを基に抽出し、妨害の程度や回避策を電気化学的に検討する。 【生物学的回収方法を補完する電極反応系の構築】 、硝酸の中和やトラップ物質の抽出などの電気化学測定前処理を施したり、購入または合成したセレン化合物のレドックス特性と比較することにより、硝酸トラップ溶液中に含まれる気化セレン化合物あるいはその反応生成物を同定すると同時にレドックス特性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は電気化学測定装置などを購入したため、当初予算より410千円程度支出が増えた。しかし、初年度(平成24年度)から1,600千円繰り越しているため、1,190千円が平成26年度に繰り越した。 平成26年度の予算は残額と請求額を合わせて1,990千円である。(1) セレン酸、亜セレン酸、各種メディエータなどの試薬類:500千円、(2) 電気化学測定用セル、ガラス器具などの器具類:800千円、(3) 電気化学測定装置関連の消耗品(回転リングディスク電極、EQCM用水晶振動子など):500千円、(4) 出張旅費、論文投稿料:190千円に使用する計画である。
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