本研究は、中性子共鳴吸収分光器を用いた非破壊・非接触の内部温度測定に関して効率化を図るため、①中性子共鳴吸収分光法によるマルチポイント同時温度測定法の開発および、②S/N比向上を目指したγ線検出器の不均等配置法の検討を行うことを目的としている。これまで②に関し、試料条件によって不均等配置法も有効と成り得ることが確認できている。 平成26年度は①に関する研究を中心に展開し、これまで本研究で製作した高温炉を用いて複数核種の同時温度測定を行うとともに、前年度までに構築したシミュレーション体系で計算した北海道大学熱中性子源のパルス関数を解析用コードに組み込んで、温度解析を行った。使用した核種はTa-181、Ag-109、Sm-147の3種類である。TaとAgは金属箔、Smは酸化物粉末の状態で、同時に高温炉中にセットし、一定温度に保ちながら室温から300℃までの間で共鳴吸収スペクトルを測定した。この共鳴吸収スペクトルには共鳴吸収断面積に加えて中性子パルス関数や核種が感じている温度によるドップラー拡がりが畳み込まれている。またこれにはTa、Ag、Smから生ずる共鳴吸収ピークが複数本生じており、一部は重なっている。この中からエネルギー分解能が高くなる数eV以下のピークを選択し、パルス関数を組み込んだ解析コードを用いた線幅解析により試料温度を求めた。その結果、いずれの核種のピークから得られた解析温度も試料温度と5K以内で一致しており、非常に精度よく温度を得ることができた。さらに、Ag-109のピークにはSmの小さい共鳴ピークが重なっているが、この影響を考慮してフィッティング解析を行い、精度良い温度を得ることができた。このことは、複数核種を温度センサーとして試験物体内部に組み込み、非破壊的に複数位置の温度を得るマルチポイント同時温度測定法が実用可能であることを示している。
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