赤銅鉱型構造をもつAg2Oは、低温で異常に大きな原子熱振動パラメータの値と散漫散乱強度をもつ。この原因が実際に動的な原子熱振動によるか、あるいは静的な原子配列の乱れに起因するか明らかにするため、ANSTOのTaipan装置を利用し、5K近傍の温度で回折測定および弾性散乱成分のみの散乱測定を行った。これらの実験から、低温度における散漫散乱強度は、静的な原子配列の乱れによることが判明した。この結果を裏付けるために、入射中性子ビームの波長を変えて実験を継続している。また、ANSTOのEchidna装置を利用し、室温から200℃付近までの中性子回折実験を試みた。室温から100℃付近まで格子定数が増加し、その後に結晶の分解のため格子定数が減少する結果が得られた。 J-PARCのiMATERIA装置を利用して、ルチル型構造の残留応力効果を明らかにするため、ZnF2およびMgF2の中性子回折実験を行った。観測されたデバイラインの半値幅は、印加圧力とともに増加した。同様な残留応力効果が得られる物質の探索を試み、X線回折実験よりAgIでは圧力の増加とともに、ベータ相からガンマ相に変化する過程を観測した。また、閃亜鉛鉱型構造(fcc)をもつCuIにおいて、圧力印加による大きな半値幅変化が生じることを確認した。これらの物質について、中性子回折実験を平成27年5月頃に行う予定である。 高温で酸素導電体の可能性のあるPrMoOについて、原子熱振動および酸素拡散経路を明らかにするため、ANSTOの中性子散乱測定装置Koalaを利用し、室温以上の温度領域でラウエ反射強度データを収集した。測定データからミラー指数と回折強度への変換作業を行っている。この後にMEM解析を行い、伝導経路に関する知見を得る予定である。
|