研究課題/領域番号 |
24510119
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
花泉 修 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80183911)
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研究分担者 |
三浦 健太 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40396651)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ポリマー光導波路 / 光スイッチ / プロトンビーム描画 |
研究概要 |
本研究では、一般に低コストで低消費電力動作が可能なポリマー光導波路で構成されたマッハツェンダー(MZ)型熱光学スイッチを、プロトンビーム描画(Proton Beam Writing:PBW)と呼ばれるイオンビーム照射技術を用いて作製を試みる。ポリマー材料としてPMMAを使用し、PMMAの屈折率がプロトン照射によって向上する効果を利用してマスクレスで光導波路のコアを直接描画する。 平成24年度は、初期検討として、従来型の単純Y分岐(分岐角度2°)からなるMZ型光導波路をPBWで直接描画し、熱光学スイッチの作製を試みた。素子の全長は30mm程度とした。まず、Si基板に膜厚15μm程度のSiO2層を下部クラッドとしてスパッタ成膜し、その上にコア層としてPMMA(厚さ約10μm)をスピンコートで成膜後、PBWによりMZ型光導波路の描画を行った。その後、上部クラッドとしてPMMA(厚さ約10μm)を再びスピンコートにより形成し、MZ型光導波路の一方のアーム上にスイッチング用位相シフタとしてのTi薄膜ヒータ及びAl電極を装荷した。TiやAl薄膜の成膜には真空蒸着装置を用い、マスクアライナを用いたフォトリソグラフィによりヒータ及び電極のパターニングを行った。 以上のプロセスで作製した試料に対し、既存の光導波路測定系を用いて波長1.55μmのレーザ光を入射させ、電流ON/OFF(ヒータ加熱ON/OFF)による出射光のON/OFFの確認とともに、スイッチング電力や消光比(ON/OFF時の出射光強度の比)の評価を行った。その結果、基本的なスイッチング動作が確認でき、スイッチング電力は約44mW、消光比は約9dBと測定された。スイッチング電力は、目標値(5mW)の達成までには至らなかったが、下部クラッドの材料(現在はSiO2)を見直すことによって更なる低消費電力化が図れるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として、研究代表者らは、プロトンビーム描画技術を用いてMZ型ポリマー光導波路を直接描画し、それに対して独自の熱解析により設計されたTiヒーター及びAl電極を形成して低消費電力熱光学スイッチを実現することを挙げている。研究代表者らは、現在までに、既に熱光学スイッチを実際に試作し、基本的なスイッチング動作の確認にまで至っており、その点については、当初の計画以上に研究が進展していると言える。 しかしながら、測定されたスイッチング電力及び消光比は、それぞれ約44mW、約9dBにとどまっており、目標値(それぞれ5mW、20dB程度)には至っていない。これらの値は、今後、構成材料の見直しや作製プロセスの最適化により改善可能と考えられるが、スイッチング特性は現時点では十分とは言えない。 以上を総合的に考え、現在までの本研究は、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に試作した熱光学スイッチのMZ型光導波路は、単純Y分岐で構成されていたが、平成25年度は、本研究の目標の一つである素子の小型化も目指してアンテナ結合型Y分岐の導入を試みる。アンテナ結合型Y分岐は、研究代表者が特許を取得しており、単純なY分岐に比べ、分岐角度を約2倍(3°程度)にできるため、素子の小型化が可能となる。PBWによりアンテナ結合型Y分岐のような特殊な構造を精度良く描画できるかどうかがポイントとなるが、PBWは微細加工技術として開発されたものであることから、PBWは我々の目的を達成する上で最適な直接描画技術と考えている。 まず、ビーム伝搬法(BPM)を用いたシミュレーションによりアンテナ結合型Y分岐の最適構造の設計を行い、低損失分岐(0.1dB以下程度)が可能な範囲で最大の分岐角度を見つけ出す。その設計に基づき、実際にPBWによりアンテナ結合型Y分岐の描画を行う。その過程の中で、問題点を洗い出し、必要なPBW技術の開発も新たに行いつつ、研究を進めていく。作製した試料の光導波特性の評価は、平成24年度と同様、現有の1.5μm帯可変波長レーザ、近赤外カメラ、近視野像観察用光学ユニット等を使用し、主に分岐損失と分岐比(分岐後の2つの出射光の強度比)に注目して評価を行う。その結果を設計やPBWプロセスにフィードバックすることによって、所望の構造が形成できるよう、最適化を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
現時点では、設備備品として水晶発振式成膜コントローラ(約100万円)を購入予定である。これを現有の真空蒸着装置と組み合わせることで、薄膜ヒータ及び電極の形成時に行うTi及びAl薄膜の膜厚をより精密に制御可能となり、熱光学スイッチの低消費電力化につながるものと期待される。当初、これは平成24年度に購入予定だったが、平成24年度は、まず熱光学スイッチの試作と基本的なスイッチング動作の確認に重きを置いたため、前述の精密な膜厚調節の必要が無く、購入を見合わせていた。しかしながら、やはり、更なる低消費電力化には、Ti薄膜ヒータ及びAl電極の厚さの制御が必須と思われるため、平成25年度に最新機種を購入して本研究の推進力とすることを考えている。 更に、試料の作製や評価に使用する光学基板や試薬類及び機械加工部品等の各種消耗品の購入にも充てる。平成24年度は、これらの消耗品類は、研究代表者らの研究室のストックで賄うことができたが、ほぼ底を尽きてしまったため、平成25年度は新たに購入する必要がある。また、平成24年度中の研究成果の発表は、平成25年度開催の各種学会で行うことを考えており、それに伴う国内旅費および国外旅費に使用する。平成24年度の成果に関連する新たな論文投稿も準備中のため、その投稿料にも使用する。
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