研究課題/領域番号 |
24510122
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
細糸 信好 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (30165550)
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キーワード | 放射光 / 共鳴X線磁気散乱 / ナノ磁性薄膜 / 間接交換結合 / 交換バイアス効果 / 垂直磁気異方性 |
研究概要 |
25年度の主たる研究計画は、すでに研究が進んでいるFe/Au(001)間接交換結合系のAu層誘起磁性と比較するためにCo/Cu系の研究を進めること、共鳴X線磁気散乱による非磁性層の誘起磁性研究という手法の適用範囲を、間接交換結合に加えて、交換バイアス効果や垂直磁気異方性を示す磁性多層膜に拡張することであった。 Co/Cu(111)系に関しては、前年度にCu K吸収端共鳴X線磁気散乱測定と暫定的なデータ解析を行ったが、本年度は更に解析を進めた。その結果、Co/Cu(111)中のCu層4p電子に誘起されたスピン分極分布は界面近傍に集中しており、Fe/Au(001)中のAu層5d電子のスピン分極分布と様相が異なることが明確になった。さらに精密な磁気散乱測定と解析が行えるように試料作製法の改善について検討を加えた。 交換バイアス効果についてはCoO/Fe直接交換バイアス系およびCoO/Cu/Fe間接交換バイアス系について試料作製条件の検討を進め、磁化測定により交換バイアス効果の発現を確認した。また、CoO/Cu/Fe系でCu層を介した間接交換バイアス効果の大きさのCu膜厚依存性が、Co/Cu系のCu K吸収端共鳴X線磁気散乱測定から得られたCu層磁気分極の減衰長と対応することを示唆するデータを得た。今後、さらに検証を進めるとともに交換バイアス系のCu層の誘起磁気構造を解明する。 垂直磁気異方性については種々の条件でFe/Pt多層膜試料を作製した。放射光実験を想定して、適切な磁化過程を示す試料を作製しており、26年度に放射光実験を行うことが確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の初めに示した項目についてはほぼ予定通りに進んでいる。予定していた放射光実験はビームタイムが確保できずに実施できなかったが、交換バイアス効果や垂直磁気異方性を示す試料の作製とその構造や磁気特性評価は予定通りに進んでいること、Fe/Pt系は放射光実験のビームタイムが確定していることなどから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究計画の最終年度にあたるため得られた結果の取りまとめを進める。Co/Cu(111)系や2倍周期Fe1/Au/Fe2/Au系については論文発表を行う予定である。 CoO/Cu/Fe交換バイアス系に関しては、硬X線(K吸収端)による測定は測定感度の問題もあるので、軟X線(L2,3吸収端)測定も含めて検討する。また、感度的に測定が容易なCoO/Au/Fe系などの作製を進める。反強磁性層としてCoOを用いると交換バイアス効果の発現温度が低温になるので、反強磁性層を変えて室温で間接交換バイアス効果を示すような系を探索する。 Fe/Pt垂直磁化膜についてはPt L2,3吸収端での小角共鳴X線反射率測定、高角X線磁気回折の測定を行い、最終的には原子層の分解能でPt層の磁気構造を明らかにすることを目指す。磁性にとって有用な情報を与えるだけでなく、放射光X線を利用した新たな磁気構造決定法というビーム科学の点からも新規な結果を出すように努めたい。また、Ptはスピン流を検出する電極材料としてよく用いられていることに鑑み、強磁性層に接したPt層の誘起磁性を明らかにすることが重要であると考えられるので、この観点からの研究も進める。
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