研究課題/領域番号 |
24510129
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
樹神 克明 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (10313115)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PDF解析 / 強相関電子系 |
研究概要 |
伝導電子のガラス的凍結が期待されるLiMn2O4に対して、中性子PDF解析法を用いて電子のガラス的凍結に伴う局所構造歪みを観測し、さらに電子の短距離配列を決定することができた。 LiMn2O4は約260Kで立方晶から斜方晶への構造相転移を示す。高温立方晶ではすべてのMnサイトは結晶学的に等価でその価数は+3.5であるが、低温斜方晶では複数の非等価な+3価と+4価のサイトが存在する。このことからこの構造相転移はMn価電子の電荷秩序(電子の結晶化)に伴うものとみることができるが、電気伝導は構造相転移の上下でともに絶縁体的である。このことから高温立方晶では伝導電子がガラス的に凍結しており、そのために絶縁体的な電気伝導が生じていると予想できる。 そこで我々は中性子吸収断面積が小さい7Liにエンリッチした7LiMn2O4粉末試料を合成し、それを用いてJ-PARCに設置されているKEK全散乱装置NOVAにおいて粉末回折実験を行い、そのデータを原子対相関関数(PDF)に変換して局所構造解析を行った。その結果300Kで得られたPDFは高温立方晶の構造ではあまり良く再現できず、低温斜方晶構造で良く再現できることがわかった。これは高温立方晶相が低温斜方晶に類似する局所構造歪みを持っていることを示している。さらに局所構造パラメータを詳細に調べた結果、低温斜方晶と同様に複数の非等価なMn3+、Mn4+サイトが存在し、低温斜方晶と同様の電子配列が短距離周期で存在していることが明らかになった。 同様に電子のガラス的凍結が期待されるSr3Fe2O7-dについても局所構造解析を行ったが、この系は局所構造歪みが予想以上に小さいことがわかった。歪んだ局所構造を明らかにするために、より詳細な解析を進めている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LiMn2O4については伝導電子のガラス的凍結による局所構造歪みの観測と、凍結した電子の短距離配列の決定に成功しており、本研究課題の目的に沿った結果が得られている。ただし最終目的である「電子のガラス的凍結状態の出現機構の解明」まで達成するにはより多くの研究例が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べたように本研究課題の目的を達成するためには、伝導電子のガラス的凍結が期待される候補物質に対しての多くの研究例が必要となる。そこでYBaCo2O5、BaBiO3などの候補物質を合成し、LiMn2O4と同様にPDF解析法を用いた局所構造解析により、電子のガラス的凍結による局所構造歪みの観測および凍結電子の短距離配列の決定を進めていく。また電子のガラス的凍結状態におけるマクロな物性と局所構造歪みの関連にも興味が持たれるので、特に局所構造歪みの温度依存性にも注目して研究を行う。PDF解析のための粉末中性子回折実験はKEK全散乱装置NOVAをメインに用いて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
伝導電子のガラス的凍結が期待される候補物質の合成用の試薬を購入する。中性子散乱実験では一般に大量の試料が必要になること、またマクロ物性測定用にも試料が必要なので、試薬は大量に購入する。またマクロ物性測定に用いる寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)も購入する。 学会および国際会議、また論文誌での成果発表を予定しているので、学会参加旅費および参加登録料、論文掲載料が必要となる。 PDF解析を行う際には通常のPCでは数時間レベルの計算時間がかかってしまうので、高度なCPU、メモリを搭載したPCを購入することによって研究の効率化を図る。
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