研究課題
単一の量子ドットからの発光信号は、内在するキャリア・スピンの向きに応じて異なる偏光をもつ。そのため、量子ドットから発する光子束に対し、偏光度の時間揺らぎを計測することで、スピン状態の緩和過程が観測できるはずである。本研究では、このようなアイデアに基づく「スピン揺らぎ分光法」を開発し、従来の手法では観測できなかった、ナノ秒からマイクロ秒に至る広い時間領域において、スピン緩和過程の観測を行う。キャリア・スピンと核スピンおよび閉じ込めポテンシャルとの関係を定量的に調べ、室温で動作するスピン・デバイスの実現のための基礎指針を提案する。平成25年度においては、前年度までに構築した偏光光子対の相関測定装置を活用することにより、量子ドットカスケードを用いた偏光もつれあい光子対発生の検証を行った。等方的な量ドットを制御性よく実現することで、外部制御の手間いらずに、世界最高値のもつれあい度の観測に成功した。量子ドットの創製には、NIMSが独自に開発した液滴エピタキシー法を用いた。量子ドットの成長基板として、通常用いる[100]面のガリウム砒素ではなく、[111]A面のガリウム砒素を適用する。[111]A面の原子の配列は、正三角形のユニットから構成される。このため量子ドットの形状も正三角形に近くなり、等方的な性質を持つと期待した。作製したガリウム砒素量子ドットから発する蛍光信号を解析すると、忠実度が86 (±2) % のもつれ光子対になることを見出した。さらに、量子もつれの厳密な評価基準である、ベルの不等式の破れを、雑音レベルの5倍以上の大きさで観測した。いずれも過去の報告値を凌駕する。これまでの光源では、ポストセレクションと呼ぶ信号選別を経て、量子もつれの特性を得ていた。我々の光源は、付加的な選別を用いることなく優れた特性を示している。このため、直接、量子通信システムへの実装が可能である。
2: おおむね順調に進展している
い検出感度を持つ偏光光子相関系の構築が完了し。今後のスピン揺らぎ計測への展開は容易であると推測できるため。また、対称性の優れた量子ドット試料が作製できたので、実験の促進が予想できるため。
平成26年度には、高対称量子ドットの荷電励起子状態から中性励起子状態に至る条件付光子相関測定を行うことで、本提案のスピン揺らぎ計測の最終的な検証に繋げる。また、電流注入型スピン素子デバイスの設計や、通信波長域光源などの応用展開も狙う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Phys. Rev. B
巻: 88 ページ: 041306(R)1-5
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