研究課題
単一の量子ドットからの発光信号は、内在するキャリア・スピンの向きに応じて異なる偏光をもつ。そのため、量子ドットから発する光子束に対し、偏光度の時間揺らぎを計測することで、スピン状態の緩和過程が観測できるはずである。本研究では、このようなアイデアに基づく「スピン揺らぎ分光法」を開発し、従来の手法では観測できなかった、ナノ秒からマイクロ秒に至る広い時間領域において、スピン緩和過程の観測を行い、室温で動作するスピン・デバイスの実現のための基礎指針を提案する。平成26年度においては、偏光光子対の相関測定装置を活用して、励起子分子-励起子カスケード遷移による量子もつれ光子対発生の観測を進めた。量子もつれの大きさ(フィデリティ)は励起子状態のスピン緩和に直結する。もつれ緩和の機構解明のため試料温度や励起強度などの環境パラメーターを変化しながら、光子相関実験を行った。その結果、励起子偏光緩和の主要因が、従来考えられていたスピン軌道相互作用に依るものではなく、量子ドットの背景にある電荷揺らぎや核スピン揺らぎなど、環境ノイズによる対称性の破れから生じることを突き止めた。もつれ発生実験と並行して、当初計画で予定していた偏光相関実験も実施した。その結果(当初考えていた)荷電励起子の自己相関信号に現れる偏光ノイズは計測限界以下であった。しかし、中性励起子-荷電励起子の相互相関に、クーロンブッロケード由来のアンチバンチング信号を明瞭に観測できた。アンチバンチングの立ち上がり時間から、単一電荷のスピン緩和時間を評価できる。実験を進めるなかで、立ち上がり時間が、励起強度に強く依存することが判明した。これは励起強度の変化でキャリアの滞在時間が変わるからである。弱励起限界のデータから正孔スピン緩和時間の値を見積もると20ナノ秒(以上)と評価できた。詳細な解析を進めている。
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