研究課題/領域番号 |
24510148
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野口 裕 千葉大学, 先進科学センター, 助教 (20399538)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子素子 / 単分子接合 / エネルギー準位接続 / 電気伝導機構 |
研究概要 |
一組の対向する電極間を単一分子で架橋した「単分子接合」の電荷輸送特性は、伝導電子が分子軌道を介して対向電極へ渡る「軌道仲介型」と、分子をトンネル障壁として透過する「トンネル型」に大別される。本研究では、これらが現れる条件をエネルギー準位接続の観点から明らかにすることを目的としている。本年度は主に走査型プローブ顕微鏡を用いた電気伝導特性測定系の構築と、紫外光電子分光法(UPS)、光電子収量分光法(PYS)による単分子膜(SAM)/金属界面のエネルギー準位接続の評価を行った。 本年度は、平坦なAu基板上に成膜した鎖長の異なるアルカンチオールSAMを標準試料として用意し、導電性プローブ(CP-)AFMを用いた電気伝導測定を行い、UPSおよびPYSにより電子構造を評価した。UPS/PYS測定により実測したパラメータ(電極の仕事関数、分子のHOMO、界面ダイポール)を用いて、分子接合の電流電圧(IV)特性を「一準位モデル」により計算した。計算により得られたIV特性とCP-AFMにより実測したIV特性をFowler-Nordheim plot上に現れる極小点(transition voltage)に着目して比較し、エネルギー準位接続と分子接合の電気伝導特性との関係を解析した。その結果、アルカンチオール分子接合では、接合の大部分を占める主鎖よりも、チオール/Au接触に起因するエネルギー準位が、電気伝導特性に支配的であることを見いだした。これらの結果は、分子素子における界面設計の重要性を示す結果と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、STM-break junction法を用いた単一分子接合の電気伝導特性評価を行う予定であったが、測定系の構築が予定通り進まず、信頼性の高い測定が実現できなかった。一方で、テンプレートストリッピング法と呼ばれる平坦電極の作製手法とCP-AFMを併せて用いることにより、再現性よく電気特性評価(IV特性測定)を行なえることが分かった。さらに、得られたIV特性をFowler-Nordheim Plot上に現れる極小点に基づいて解析することにより、分子接合におけるエネルギー準位接続と電気伝導特性の関係を定量的に評価できる(transition voltage spectroscopy: TVS)。したがって、ある一定電圧印加時におけるコンダクタンスを評価するSTM-break junction法よりも、CP-AFMを用いたTVSは、むしろ本研究の目的に適した方法であると言える。一方、UPS/PYSによるエネルギー準位接続の評価は、計画通り概ね順調に進んだ。より高精度な測定に向けて、現在準備中である。プロジェクト全体としては、「分子接合の電気伝導特性をエネルギー準位接続から理解する」という目的に向けて、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度確立した評価手法「CP-AFMによる電気伝導測定」、「UPS/PYSによるエネルギー準位接続評価」、「TVSによる両者の定量的な比較」を、当初予定どおりC60等のパイ電子材料を含んだ系(例: C60 /SAM /Au)に適用していく。SAM上へのパイ共役分子の導入には当初、蒸着法を想定していたが、下地へのダメージを考慮し、化学反応を利用したSAM on SAMによる積層も検討する。昨年度、電気伝導特性はチオール/Au接触におけるエネルギー準位に強く依存することがわかったので、アンカー部位を置換した数種類の材料を用意し、分子/Au接触の寄与についても系統的に検討する必要がある。また、ケルビンプローブ測定系を、試料作製から評価までを大気曝露無しで行えるように改良する。高精度UPS/PYS測定と合わせて、「トンネル型」と「軌道仲介型」電気伝導の境界条件をエネルギー準位接続の観点から探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も当初計画通り予算を執行していく予定である。
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