研究課題/領域番号 |
24510148
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野口 裕 千葉大学, 先進科学センター, 助教 (20399538)
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キーワード | 分子素子 / 分子接合 / エネルギー準位接続 / 電気伝導機構 |
研究概要 |
一組の対向する電極間を単一分子で架橋した「単分子接合」の電荷輸送特性は、伝導電子が分子軌道を介して対向電極へ渡る「軌道仲介型」と、分子をトンネル障壁として透過する「トンネル型」に大別される。本研究では、これらが現れる条件をエネルギー準位接続の観点から明らかにすることを目的としている。昨年度までに、紫外光電子分光法(UPS)や光電子収量分光法(PYS)によるアルカンチオール自己組織化単分子膜(SAM)/Au界面のエネルギー準位接続の実測と、対応する分子接合の電気伝導特性の測定に成功していた。しかしながら、UPS/PYSスペクトルは、電気伝導特性の詳細な解析には不十分なクオリティであった。今年度は、より高感度なUPS測定を実施し、S-Au結合に由来する明瞭なスペクトルを得ることに成功した。UPS測定で使用した試料は、そのまま導電性プローブ原子間力顕微鏡(CP-AFM)による電気伝導測定に用いた。これまで報告されている多くの論文では、エネルギー準位接続と電気伝導特性評価は、別個に作製された試料を用いて行われているため、両者を直接比較するには問題があった。本研究では、これを同一試料で行うことにより、分子接合の電気伝導特性を界面電子構造に基づいて直接議論することを可能にした。Transition voltage spectroscopy(TVS)と呼ばれる手法で、電気伝導特性を解析したところ、UPSで得られた結果と良い一致を示した。また、これまで実験的に見積ることが困難だった分子接合の非対称性を表すパラメータを直接見積もることができるようになった。さらに、HOMOと伝導電子との相互作用のみで記述されることが多かったアルカンチオール分子接合の電気伝導にも、LUMOの寄与を考慮する必要があることが分かった。これは、先行研究の解析結果に再考を促す重要な成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高感度UPSスペクトルと電気伝導特性を同一試料で比較できるようになったことはH25年度の特筆すべき成果であるが、その一方で、σ-π-σ分子接合の作製と評価は当初予定よりも遅れている。H25年度は下地SAM上に化学反応により別のSAMを積層する手法を用いてσ-π-σ分子接合の作製に取り組んだが、年度途中で赤外分光測定装置の故障が発覚したため、計画を変更せざるを得なかった。その結果、H25年度に計画していたσ-π-σ分子接合のエネルギー準位接続、電気伝導特性ともに測定することが出来なかった。したがって達成度をやや遅れている、とした。
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今後の研究の推進方策 |
赤外分光測定装置の修理がH25年度末で完了したため、H26年度はH25年度にできなかったs-p-s接合の作製と評価を行う。σ-π-σ分子接合における「CP-AFMによる電気伝導測定」、「高感度UPS/PYSによるエネルギー準位接続評価」、「transition voltage spectroscopyによる両者の定量的な比較」を通して、「トンネル型」と「軌道仲介型」電気伝導の境界条件をエネルギー準位接続の観点から探る。 一方、これらの解析を進める上では考慮すべき問題点がある。すなわち、UPSとCP-AFMの測定範囲の違いである。UPSでは数mm2範囲の平均情報を測定するのに対し、CP-AFMでは数nm2範囲の局所情報を測定している。これらの影響を考慮するため、我々は、H25年度からWedging Transfer法を用いたmm2単位の大面積分子接合の作製に取り組み、現在までに複数の分子接合における電気伝導特性を得ることに成功している。今年度は、大面積分子接合の電気伝導評価を加え、CP-AFM、UPS/PYSとあわせて分子接合の電気伝導機構をエネルギー準位接続から包括的に理解することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は4円が端数として残った。 H25年度の残額はH26年度の研究計画に影響しない。したがって、H26年度の計画は特に変更しない。
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