研究課題/領域番号 |
24510153
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
横井 裕之 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (50358305)
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キーワード | 架橋型カーボンナノリボン / 液面下CVD法 / 新ナノカーボン物質 |
研究概要 |
As-grown架橋型カーボンナノリボンの高純度・高効率な合成条件を決定するために、触媒ならびに触媒担持体、合成温度条件の検討を行ったが、その過程で新規構造をもったナノカーボン物質を見出した。新規性が高い上に応用上の有用性も期待されたため、その生成条件と構造の特定にも注力した。 前年度に液面下CVD法の特徴である温度勾配を高めるほどナノリボンの生成に有利になることを見出したため、合成基板を鉛直に配置して温度勾配がさらに高くなるように合成装置を改良した。この配置はカーボンナノリボンの合成に最初に成功した際に取っていたが、当時の設計では基板保持材の熱損傷が激しくてコストがかさむという問題があった。そこで今年度は合成基板を宙づりする方式を考案した。 さらに、触媒担持体として酸化グラフェンを検討した。これまでは主にゼオライトを金属触媒の担持体として用いてきたが、酸化グラフェンあるいはその還元体にもグラフェン表面の欠陥サイトに金属微粒子が形成すると考えた。また、担持体もグラフェン構造であればナノリボンとの接合性が良好となることを期待した。シリコン基板上に塗布した酸化グラフェンに酢酸コバルト-酢酸鉄を混合したエタノール溶液をスプレーしてアルゴン雰囲気下で800℃まで加熱した実験では、直径10nm程度の微粒子の形成が認められた。 合成実験においては、ナノリボンの合成条件探索の過程で新規のナノ構造をもつカーボンナノチューブが形成することを見出した。その新規カーボンナノチューブについて最適な触媒調製法と合成条件を決定するとともに、SEMとTEMによる詳細な観察から微視的構造を解明した。既存のバンブー型ナノチューブやカップ積層型ナノチューブとは異なる特徴を有していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、As-grown架橋型カーボンナノリボンの高純度・高効率な合成条件を決定することを目標として、合成装置改良に取り組み装置を完成させた。しかし、合成条件探索の過程で新規ナノカーボン物質を見出すという予想外の成果を得て、新規性と応用上の有用性に鑑みて、その生成条件と構造の特定を優先した。そのため、カーボンナノリボン合成の最適条件についてはまだ完全には特定できていない。ただ、次年度の早期に新物質の特許出願を完了する目途が立ち、それ以降は本研究の推進に重点を置くことができる。合成装置は完成しているため、遅れは早急に挽回できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
改良した合成基板鉛直配置型液面下CVD装置を用いて、ナノカーボンリボン合成実験に取り組む。合成条件をある程度最適化した段階で、合成基板を電気特性計測用のものに切り替えて、架橋型ナノリボンの電気特性を調査する。基板としては、熱酸化シリコン基板を金蒸着し、集束イオンビームで溝加工を施したものを用いることにより、単一ナノリボンの特性を計測する。さらに、ガス雰囲気制御チャンバーを用いて、ガスセンサーとしてのデバイス特性を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
架橋型カーボンナノリボンの電気伝導特性を計測するために、熊本大学先進ナノ構造解析システム室の集束イオンビームによる基板微細加工を行う予定であったが、予想外の新物質生成を受けてその生成条件と構造の特定を優先した。そのため、集束イオンビームの登録料と使用料に充てる予定であった予算が未使用となったことが主な理由である。 物品費は消耗品のみであり、設備備品の購入計画はない。消耗品は主に合成実験に用いる有機液体や触媒材料、基板材料、ガス類、並びに合成装置の器具や電極部材である。それらに135千円を充てる計画であったが、実験数を増やすために繰越金から121千円を原料費に充てる。それに伴って集束イオンビームによる基板微細加工の件数が大幅に増えることに対応するために、繰越金の残りの130千円をその使用料に充てる。その他のFE-TEM、集束イオンビーム装置、FE-SEMの使用料と学会参加登録費や論文投稿料を合わせて、565千円を使用する計画である。また、旅費は国内での学会発表2回と米国ボストンで開催のMaterials Research Society Fall Meeting参加のために合わせて430千円を使用する予定である。
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