研究課題/領域番号 |
24510157
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
谷口 昌宏 金沢工業大学, バイオ・ 化学部, 教授 (30250418)
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研究分担者 |
山岸 晧彦 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (70001865)
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キーワード | 走査型アトムプローブ / 質量分析 / アミノ酸 |
研究概要 |
質量分析は微細領域での高感度元素分析ができるキャラクタリゼーション手法として広く認知されている。有機物、生体関連分子の化学分析においては、元素分析とは別に分子種の特定ができることが望まれており、分子イオンの検出を主眼においたソフトイオン化手法の確立が望まれている。本研究で用いられる走査型アトムプローブ(Scanning Atom Probe, SAP) はアトムプローブ(Atom Probe, AP)を元にして、APにおける試料形状への制約を取り払った装置である。 SAPを有機分子の分析に適用するにあたり、H25年度はアミノ酸のなかでも小分子のものを保持するための下地物質として親水性のポリマーについて検討を行った。親水性ポリマーとして、構造が既知の合成高分子のなかからポリアクリル酸、ポリビニルアルコールについて金属探針へのコーティングを行い、アトムプローブで分析を行った。その結果、低質量領域にのみマスピークを持つ非常に単純な質量スペクトルを与えることが確認された。小分子量の分子は蒸気圧が高いために、予備排気中に試料分子の脱離が進行し、探針への保持が難しいことが、小分子量試料のイオン収量が小さい原因であると考えられる。マトリックスとして用いることで、アミノ酸の中でも小分子量のものの脱離を抑制しアトムプローブ分析ができるようになると期待される。 また、H25年度はカーボンナノチューブに代わる担持体としてカーボンファイバーを使用するための予備分析も行った。カーボンファイバーは種々のグレード、製法のものが入手できる。それらをアトムプローブで分析した結果、その中にカーボンナノチューブと同等のスペクトルを与えるものが見つかった。今後、カーボンファイバーを担持体に用いてアミノ酸を分析できるかどうかを検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的のうち、分子系試料のAPによる分析条件の温度条件を最適化するための機構的な改良作業はほぼ終了し、実際の試料についての実測データを蓄えるべき段階にある。 試料の担持法の改善については現在のところカーボンナノチューブの部分酸化法を試みた段階であり、続いて合成ポリマー分子をマトリックスとして用いることで蒸気圧の高い小分子を効率良く保持するための予備実験に目処がついた段階である。 また、特性の優れたカーボンナノチューブは現在供給源が限られており、研究者らのグループ内で再現性よく得られる担持体の素材の候補として、カーボンファイバーを検討したところ、グレード、製法を選べば、分子試料の担持体として良い候補となる可能性を見出した。 アミノ酸の分析ライブラリの構築については、蒸気圧が十分低い試料については通常の生物に共通なアミノ酸以外にも、特定生物が生産している広義のアミノ酸についても分析を試み、やはりマススペクトルが得られることを確認した。 上記のように、実験手法の装置に関連する部分はほぼ達成している。また、試料の保持方法などは当初の目的を達成したものの、さらに改善できる見通しが出てきた。これらを踏まえた実際のデータの蓄積については、個別分析条件の試行錯誤を含め、これからの充実が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アミノ酸の分析ライブラリの構築: 20種類のアミノ酸について順次分析を進め、アミノ基やカルボキシル基と他の構成原子がどのように結合しているかを明らかにする。小分子量のアミノ酸については、試料作製時の高分子マトリックスを用いることで蒸発脱離を抑制することでイオン収量の増大を図る。 担持体先端の化学修飾による試料分子の担持能の改良と分子拡散の制御: 小分子をSAPで分析する際、試料を強電界中で保持するための担体が問題となる。これまでに高純度SWCNTが担持体として優れていることを見出しているが、選別したカーボンファイバーの表面を親水性ポリマーで被覆して親水化処理することで分子の保持能を高め、AP分析の再現性、イオン検出数を向上させる。また、これまで試料温度は室温で分析を進めてきたが、試料の熱脱離を制御することがイオン数の増加には必要である。ただし、熱拡散には電界蒸発を扶ける効果もある。そのために、試料冷却温度を変えて至適条件を探る。 イオン検出数の改善による元素組成比の検討とイオン同定能力の向上: 生体分子からはNH2+やO+の様に極めて質量数が近いフラグメントイオンが検出される。位置感知型二次元イオン検出器(2D-PSID)に直接脱離イオンを投影するSAPは質量分解能ではリフレクトロン型SAPに劣るものの、イオンの捕捉率においては逆に格段に優位にある。そこで、リフレクトロン型SAPと二次元検出器を用いた直接投影型SAPと連携させ、C、N、O、S等の同位体の存在比より検出イオンの同定の確度を高める。同位体ピークの計数含めて構成原子数をより正確にカウントする方式を開発し、検出イオンの同定の信頼性を高める。検出イオンを同定した後、構成元素ごとの原子数をカウントし、試料分子の組成比との一致を確かめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に装置の検出器の主要デバイスであるマイクロチャンネルプレート(MCP)(概算費用300千円)を交換する予定であったが、幸いにもMCPの消耗が少なかったので、平成26年度に持ち越しできる見込みとなった。 一方、レーザーの発振強度低下を解決するための調整費用(作業料金 153千円 執行済み)、および試料ステージの損耗に伴う部品交換などが平成25年度後半に生じた。試料ステージの交換部品の費用は概算150千円であり、この費目は請求時期が年度末期であったのでまだ執行されておらず、平成26年度に支払いの予定である。残額140千円が生じたのはこの差によるものである。 上記のように、平成25年度中の使用額はほぼ予算と一致しており、平成25年度の実際の研究経費のうち、平成26年度に繰り越しになった額(約150千円)を執行すれば次年度使用額は解消する。
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