研究課題/領域番号 |
24510157
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
谷口 昌宏 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (30250418)
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研究分担者 |
山岸 晧彦 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (70001865)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 走査型アトムプローブ / アミノ酸 / 生体分子 / 質量分析 / 電界蒸発 |
研究実績の概要 |
質量分析は微量高感度の元素分析、分子構造解析ができる分析手法であり、イオン化手法としてマイクロビームを用いれば二次イオン質量分析法(SIMS)のように空間分布の情報も得られるようになる。本研究課題の研究手法である、アトムプローブ(AP)の場合、固体試料の先端の極微小領域での質量分析データが原子レベルの位置情報と共に得られる特徴があり、試料形態についてAPはSIMSと補完的な関係にある。 本研究課題は走査型アトムプローブ(SAP)の開発、試料ハンドリング手法の開拓などによって、金属あるいは共有結合結晶などのバルク物質に限定されてきたAPの分析対象を、通常の化学試料(小分子)や生体分子へと広げようとするものである。 平成26年度はアミノ酸の分析ライブラリを完成させるための測定を進めるなかで、試料の担持方法などについて新たな知見を得ることができた。担持体としてカーボンナノチューブを用いる場合、部分酸化による親水化の処理を行ってきたが、担持方法を改良すれば、これを行わなくても十分なイオン収量が得られることが判明した。よって、既に得られている分析データにつき、新たな条件での再測定により改良できる見込みが現われた。 装置面での研究については、電界蒸発トリガー方法に関して、APの黎明期から使われてきた電圧パルスに対して、近年、通常のバルク試料の分析において主流となっているのは短パルスレーザーである。しかし、小分子系についてはまだどちらも適用例が少なく、未知の部分が多い。そこで、二つのトリガーを交互印加して同一試料から両者のデータを一度に収集できるようシステムを改造し、運用できることを確かめた。本システムは、本課題で分析対象とする小分子系に対して二つのトリガー手法を比較、選択する上で明解な指針を与えるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題は平成26年度が研究計画の最終年度であったが、下記のような事由で遅滞を生じたため、平成27年度への1年の延長を申請した。 平成26年度中に研究代表者が研究を実施している実験棟において、実験装置を別な区画に移転する必要が生じた。そのため、2ヶ月間の間、作業のために実験研究を中断することとなった。さらに、実験再開後に試料ホルダーの破損が生じたため、修理交換のために遅滞が生じた。この障害は平成26年度中に解決し、平成27年度に入った現在、遅滞を取り戻すために実験を進めているところである。 本課題では、小分子のなかでも生体系とかかわりの深い、アミノ酸を中心として分析対象を選択している。H26年度後半の分析結果から、そこで分析したアミノ酸に対する最適と考えられた分析条件にもとづき得られた分析結果をもとに、H26年度までに測定したアミノ酸の分析結果を再検討した結果、過去に分析した試料のうち、条件を変えて再度の測定を行うべきものが出てきた。アミノ酸の分析ライブラリを完成するには、これを完結させる必要があり、測定データの収集という面では遅滞はあるものの、データの有効性を保証する上では意義があると考える。 測定手法の開発の面では、電界蒸発トリガーの印加手法につき、電圧パルスとレーザーパルスの交互印加のできるシステムを開発し、通常の金属試料によってそれが有効に動作することが確認できた。これを本課題の小分子系に適用するための準備を進めている。担持体の探索では、カーボンファイバー(CF)を利用するためのアトムプローブによる基礎分析はほぼ完了しているが、CFの試料作製に時間を要するために、バッチ処理による迅速化を検討している。 以上のように、基礎データ(分析結果)の蓄積、測定手法の開拓の両面について、遅滞はみられるものの、課題の達成に向けて成果を挙げていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
小分子をアトムプローブ(AP)で分析した際の基礎データ(質量分析ライブラリ)の蓄積、測定手法の開拓の両面について、以下のように進める予定である。 アミノ酸を中心とした小分子をAP分析するにあたり、H26年度後半の分析結果から、いくつかのアミノ酸に対する最適と考えられた試料作製条件で得られた分析結果をもとに、H26年度までに測定したアミノ酸の分析結果を再検討した結果、過去に分析した試料のいくつかについて、イオン収量など改善できる見込みが得られた。よって、新しい試料作製条件で再度測定を行い、アミノ酸の分析ライブラリを完成する。 測定手法の開発の面では、電界蒸発トリガーの印加手法につき、電圧パルスとレーザーパルスの交互印加することで、通常の金属試料によってそれが有効に動作することが確認できた。これを本課題の小分子系に適用するための準備を進めている。担持体の探索では、カーボンファイバー(CF)を利用するためのアトムプローブによる基礎分析はほぼ完了しているが、CFの試料作製に時間を要するために、バッチ処理による迅速化を検討する。また、小分子を保持するためのマトリックスとしてポリマー溶液の使用については、複数の候補を選定している。上述のライブラリは溶媒分子のみを含む試料溶液を調製して測定を行うが、ポリマーマトリックスを使用すると得られるデータが複数物質の情報のものになり解釈が困難になることが危惧される。よってまず純粋試料のライブラリの完成を優先し、それを元にマトリックスの使用を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題は平成26年度が研究計画の最終年度であったが、下記のような事由で遅滞を生じたため、平成27年度への1年の延長を申請した。 平成26年度中に研究代表者が研究を実施している実験棟において、実験装置を別な区画に移転する必要が生じた。そのため、2ヶ月間の間、作業のために実験研究を中断することとなった。この事態は本研究課題とは別個に生じたものであるため、予算面では本課題からの支出は一切行なっていない。さらに、実験再開後に試料ホルダーの破損が生じたため、修理交換が必要となった。この事態は本研究課題を進める上で生じた事態である。これらの遅滞によって研究予算の執行が遅れたため研究期間の1年延長と次年度への繰越を申請した。なお、移設は無事修了し、装置の機能は回復しており、研究課題を完成する上での障害はなくなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の障害は平成26年度中に解決し、平成27年度に入った現在、遅滞を取り戻すために実験を進めているところである。繰り越しを認められた予算のうち、直接経費については寒剤(液体窒素、100千円)、試薬(150千円)、消耗部品等(150千円)、論文別刷代(40千円)に充てる予定である。
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