研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてシリコン表面近傍に埋め込まれたリン原子の物性を計測し、シリコンデバイスのためのドーパントエンジニアリングにおける基礎的知見を得ることである。平成26年度の研究成果は以下の通りである。 (1)平成25年度にn型Si(100)基板に埋め込まれたリン-シリコンのヘテロダイマーのバックリング構造がリンが基板側に沈み込んだ構造であることを突き止め、基板の電荷状態がヘテロダイマーの構造を決めている可能性があることを見出した。そこで、今年度はp型基板においてリン-シリコンヘテロダイマーを作製し、STM観察とDFT計算による構造の検討を行った。STMで観察されるヘテロダイマーの見え方はn型とp型で異なることがわかった。一方、リン原子が沈み込んだヘテロダイマー構造を用いてDFT計算によるSTMシミュレーションを行ったところ、ヘテロダイマーに由来する電子状態がフェルミ準位近傍にあるため、フェルミ準位の位置を変えるとSTM像が大きく変化し、n型とp型のSTM像の違いをよく説明することができた。基板の電荷状態とヘテロダイマーの構造との相関関係はまだ明確になっていないものの、この結果は先行研究(J. Phys. Chem. C 111, 6428 (2007))で提案されているリン原子が真空側に突き出たヘテロダイマー構造を否定するものである。 (2)平成25年度は東北大学の共同研究者によって得られたSi(100)表面の低温ARPESの実験結果を説明するために、DFTによる解析を進めてきた。今年度は、スラブの厚さを大きくすると、バンドギャップが閉じてしまう問題を回避するために、ハイブリッド汎関数を導入して計算を行った。
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