研究課題/領域番号 |
24510164
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
田中 秀吉 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所ナノICT研究室, 研究マネージャー (40284608)
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研究分担者 |
鈴木 仁 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (60359099)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グラフェンナノ構造 / 酸化物基板 / 原子間力顕微鏡 / 超高真空プロセス |
研究概要 |
基礎、応用の両面において大きな可能性と新規性を有するグラフェンナノ構造を汚染や擾乱の少ない超高真空環境下にて酸化物基板上に精密に作製、配置する技術を開拓し、その内部構造や基本物性、基板との結合様式などをナノプローブ顕微鏡によって原子スケールにて同定することが本研究の目的である。本年度は、既設の超高真空プロセス装置に金属蒸着装置、反応ガス導入ポート、加熱装置等を新設し、最適な基板素材やその平坦化プロセスを探索するとともに、カーボン系CVDプロセスの触媒金属であるCu元素を基板表面に蒸着した際のコンフォメーションや拡散ダイナミクスについてUHV非接触型原子間力顕微鏡によって調べた。これは、触媒金属(Cu)のナノクラスターをCVD初期プロセスのマーカーとして用いることで、基板上の特定部位に選択的にグラフェンナノ構造を形成させることを企図したものである。実験を進めた結果、熱処理によって平坦化したサファイア単結晶面に蒸着されたCu元素に対して適切な後熱処理を行うことで、基板上のテラスエッジ部位に選択的にナノクラスターが形成されることが明らかになった。一方、チタン酸ストロンチウム単結晶面については、堆積のごく初期においては表面のテラスエッジ近傍に選択的に凝集する傾向を見せるものの、堆積量を増加しても結晶面全体に分散するだけで、サファイア表面のように凝集する兆候は見られなかった。これは湿式プロセス後のチタン酸ストロンチウムの表面がサファイアほどには平坦でないためと考えられる。検討を進めた結果、高酸素圧高温アニールを施すことにより、チタン酸ストロンチウム表面が原子レベルにてほぼ無欠陥な超平坦状態になることを実験的に確認した。今後、速やかにこれらの表面におけるCu原子の凝集特性等について明らかにするとともに制御性を高め、CVDプロセス初期状態のコントロール手法としての有用性を実証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェンナノ構造CVDプロセスにかかわる触媒金属の基板上原子スケールコンフォメーションを超高真空中にて調べるとともに、その制御性を高めることが今年度の目標であった。目標達成に必要な技術要素である、最適な基板材の選定及び基板の平坦化プロセスや微量金属の蒸着、その凝集プロセスに関する評価方法の整備等をほぼ完了し、これらを用いた実験により、サファイア基板上のCu原子のクラスター形成について当初の予想を裏付ける実験結果を得ることができた。これらと並行して、既設の真空チャンバー内にて一連のCVDプロセスを実施するための実験環境の整備も完了した。今後は、触媒金属のコンフォメーションに関する制御性を高めるとともに、酸化物基板や触媒金属のバリエーションを増やしながら具体的なCVDプロセスの実施とグラフェンナノ構造の形成プロセス解明へと研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を踏まえ、基板上に配置されたマーカーに基づき、グラフェンナノ構造を基板上に精密形成する技術を開拓し、これらの内部構造や配列様式、電子状態を、走査型プローブ顕微鏡技術(STM/AFM)やそれらを利用した分光学的手法(STS/KFM/MFM)によって原子スケールにて観測し同定する。これらの目標達成に向けて、まずは、今年度に整備した実験設備によって超高真空中における局所CVDプロセスの確立につとめる。これを足がかりに、酸化物基板上に配置した触媒マーカー(Cu ナノクラスター)の近辺におけるグラフェンナノ構造の成長、配置の様式や基板、マーカーとの相対位置関係素を同定するとともに、触媒マーカー周辺におけるグラフェンナノ構造の形成状況を系統的に調べ、目的とする構造が再現性良く得られる条件を確立する。さらに、グラフェンナノ構造の下地基板の電子物性を化学的ドーピングや熱処理によって系統的に調整し、グラフェンナノ構造と下地基板との間の電子状態ミキシングを制御することで、基板との接合様式に対するグラフェンナノ構造の電子状態の変化を系統的に調べる。 この一連のデータに基づき、観測データに含まれる基板に由来する要素とグラフェンナノ構造に由来する要素を分離し、グラフェンナノ構造のイントリンジックな物性およびグラフェンナノ構造のトポロジカルな効果により表出する新規物性の素性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
予算残額が生じた理由は、今年度は実験環境の整備と基本データの取得に専念したことおよび、CVDプロセス装置の導入が年度後半にずれ込んだことにより、研究会等への参加経費やCVDプロセス装置の立ち上げに関わる消耗品費の支出が予想よりも少なかったためである。この予算残額残については、今年度の成果である基板表面におけるCu原子ナノクラスター形成プロセスをさらに精緻に制御するための実験実施にかかわる消耗品費の一部として使用する。特に、超平坦化に成功したチタン酸ストロンチウム基板についてはCu原子の拡散プロセスについてさらに詳細に調べる必要があり、実験を継続する必要がる。これらの実験作業と並行して、超高真空中における局所CVDプロセスの確立と形成されるカーボンナノ構造の物性探索へと研究活動を進めていく計画であり、次年度予算は主としてこれらの実験に使用する基板や耐熱ステージ、反応ガス等の消耗品や共同研究や成果発表にかかわる旅費等に使用する。
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