研究課題/領域番号 |
24510164
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
田中 秀吉 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所ナノICT研究室, 研究マネージャー (40284608)
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研究分担者 |
鈴木 仁 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (60359099)
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キーワード | グラフェンナノ構造 / 酸化物基板 / 原子間力顕微鏡 / 超高真空プロセス |
研究概要 |
本年度は、既設超高真空プロセスチャンバー内に前年度に整備したCVDプロセス装置の性能確認とナノ構造作成に際しての条件出しを行い、Cu金属触媒によるCVDプロセスに際してのナノカーボン形成プロセスの進行に関する基本的知見を得た。具体的には、超高真空中でイオンスパッタとアニールを繰り返すことによって表面を平坦化したCu薄膜上に実際にCVDプロセスを実施し、表面に形成される構造を非接触型原子間力顕微鏡(NCAFM; Non-Contact Atomic Force Microscopy)で観察した。その結果、表面に0.2~0.9nm程度の基本ステップを持つシート状構造がスタッキング形成されることを確認した。取得NCAFMイメージのバイアス電圧依存性を調べたところ、観測面のシート状構造の相対的なコントラストが印加される電圧値に応じて反転する様子が観測された。さらに、この構造の基板表面に対する局所的な仕事関数(LCPD;Local Contact Potential Difference)を測定したところ、得られたLCPD値とシート状構造の高さの間に定量的な相関が存在することが観測された。これらの結果は観測面に形成されたシート状構造の電子状態が基板表面から切り離されており、かつ構造の高さの違いは基板表面に積層するシートのスタッキング枚数の違いによるものであることを示唆している。さらに、基板表面のシート状構造の原子配列を同定するためにより高分解能の観測および取得イメージの数値解析を行った結果、これらの内部構造が3回回転対称を持つことが判明した。これは観測された構造がグラフェンであることと矛盾せず、その同定に向け更に詳細な観測を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の達成目標は基板上に配置した金属クラスタを触媒として実際にCVDプロセスを実施するとともに、形成されるカーボンナノ構造の配置様式や詳細構造、下地基板との相対位置などを調べ、ナノ構造成長における制御条件を探索することであった。まずは、CVDプロセスに際してのナノカーボン形成プロセス進行に関する情報を確実に得るため、マイカ上に形成したCu薄膜を基板として使用して実験を進めた。その結果、シート状のナノ構造がCu薄膜表面にスタッキング形成されることを確認し、原子間力顕微鏡およびこれを用いたLCPD値の観測によって形成されたシート状構造がグラフェンと考えて矛盾がないことを示した。これにより、今年度の当初目標は概ね達成されたと考える。もうひとつの目標であった酸化物上の金属クラスタ―によるCVDプロセスについては、酸化物表面の熱処理に関わる条件最適化に若干時間を要しており、実験を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、Cu薄膜上のシート状構造について、この構造がナノグラフェンであるという確固たる結論を得るために、NCAFMだけでなく、より確実に高分解能観測が可能なSTMによる観測やラマン分光やKFMによる観測を進める。特に、ナノグラフェンにおいて重要となるテラスエッジ部分の配列について、アームチェア構造あるいはジグザグ構造がどのように形成されるのかについて原子レベルにて観測し同定する。これらを足掛かりとして、酸化物基板上にて同様のCVDプロセスを早急に実施し、基板上に配置した触媒マーカー(Cu ナノクラスター)の近辺におけるグラフェンナノ構造の成長、配置の様式や基板、マーカーとの相対位置関係について知見を得るとともに、触媒マーカー周辺におけるグラフェンナノ構造の形成状況を系統的に調べ、目的とする構造が再現性良く得られる条件を確立する。さらに、グラフェンナノ構造の下地基板の電子物性を化学的ドーピングや熱処理によって系統的に調整し、グラフェンナノ構造と下地基板との間の電子状態ミキシングを制御することで、基板との接合様式に対するグラフェンナノ構造の電子状態の変化を系統的に調べる。 この一連のデータに基づき、観測データに含まれる基板に由来する要素とグラフェンナノ構造に由来する要素を分離し、グラフェンナノ構造のイントリンジックな物性およびグラフェンナノ構造のトポロジカルな効果により表出する新規物性の素性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の実施計画のうち、触媒金属上におけるCVDプロセスについては当初の予定通り進んだが、並行して進めてきた酸化物基板上の触媒金属クラスタ―上におけるCVDプロセスについては酸化物表面の熱処理に関わる条件最適化に時間を要しており、今も実験を継続中である。このため、酸化物基板材料の購入が先送りとなったとともに、予定していた海外での成果発表に関わる出張旅費の支出も来年度に持ち越しとなったため。 酸化物基板上Cuクラスタ上におけるCVDプロセスを速やかに実施するとともに、本プロセスに最適な基板およびその下処理プロセスについて方針を固め、部材を早急に入手する。さらに、CVDプロセスのさらなる最適化とバリエーションの拡充を図ることで実験結果の信頼性を高めるために、Cu以外の触媒金属(PdやNiなど)についても同様の実験を進める。また、形成されるカーボンナノ構造を原子レベルで同定するために、研究代表者が運用するNCAFMだけでなく、研究分担者が運用する低温STMも活用する予定であり、実験に必要となる部材を新たに入手する。次年度予算は主として、これらの実験に使用する基板や試料、AFM用カンチレバーおよびSTM探針、耐熱ステージ、反応ガス等の消耗品費や共同研究に関わる旅費等に使用するとともに、取りまとめた成果を国際会議にて発表するための旅費としても使用する。
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