研究課題/領域番号 |
24510169
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
下川 房男 香川大学, 工学部, 教授 (90580598)
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研究分担者 |
高尾 英邦 香川大学, 工学部, 教授 (40314091)
小林 剛 香川大学, 農学部, 准教授 (70346633)
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キーワード | 植物生体情報計測 / 水分動態 / MEMS技術 / 超小型 / 機能集積化 |
研究概要 |
本研究では,MEMS技術をベ-スに,従来の1/10以下の寸法の「超小型植物水分動態センサ」を実現し,これまでの樹木の主幹部の樹液流量の測定に対して,植物の新梢末端や果柄等の細部の樹液流量の測定を初めて可能とし,以って植物全体での水分動態に関する知見を得ることを目的としている.当該年度の目的・実施計画としては,昨年度に実施したセンサの設計・製作に必要な要素技術検討を基に,プロトタイプセンサを完成させ,そのセンサを用いてモデル植物において,実際に水分動態の測定が可能なことを検証することである. 当該年度は,まず昨年度のセンサの設計・製作に必要な要素技術検討を基に,プロセスの最適化・高度化を推し進めて,従来のグラニエセンサの機能である熱電対と熱線ヒ-タを1cm角のSiチップ上に機能集積化(熱電対→温度センサ,熱線ヒ-タ→薄膜ヒ-タ)した「超小型植物水分動態センサ」のプロトタイプを完成させた. 次に,マイクロシリンジポンプとマイクロチュ-ブ(内径φ1mm),マイクロ電子天秤からなる擬似植物実験系を新たに構築し,製作したセンサを用いて,従来のグラニエセンサで測定されてきた流速範囲(10~150μm/s)での測定が可能なこと,流量としては,約0.05g/hour以下の微小流量の測定が可能な見通しを得た.これを受けて,実際の植物としてサニ-レタスを選び,流量測定を試みたところ,道管部にセンサを挿入後,直ちにセンサ出力が得られ,かつ一般の植物で観察されている蒸散量の日変化(日中,蒸散が活発,早朝,夜間では蒸散が停止)と良く一致する傾向が観察された. 以上のように,提案した「超小型植物水分動態センサ」のプロトタイプを製作し,センサの有用性(植物の新梢末端での水分動態の測定,センサの高速応答性等)の検証に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,プロトタイプセンサを用いた植物の基本的な水分動態測定の実現に向けて,そのマイルスト-ンとして,①プロセス最適化検討とプロトタイプ試作<25年度前半>,②プロトタイプセンサを用いた植物の基本的な水分動態測定(植物の新梢末端での水分動態の測定,センサの高速応答性・良好な動作安定性)<25年度後半>を目標に掲げ,以下に記載するように,当初の目標とした研究成果が得られた. まず,①のプロセス最適化検討とプロトタイプ試作については,正確な温度測定に不可欠な2本のマイクロプロ-ブ間の熱的分離構造の導入を狙いに,樹脂材料(SU-8)を用いた断熱構造を考案し,断熱構造の製作からチップの機能集積化に見通しを得るとともに,センサ製作における各プロセス条件の最適化を行い,プロトタイプを完成させた.また,②のプロトタイプセンサを用いた植物の基本的な水分動態測定では,予め擬似植物実験系により,センサ出力と流量(流速)の関係のキャリブレ-ションを行い,その結果を基に,植物の新梢末端での水分動態の測定が可能なことを明らかにした.更に,センサの高速応答性・良好な動作安定性(センサを道管部に挿入して直ちにセンサ応答があり,数分程度で安定動作)の実現性を確認した. このように,目標に掲げた「超小型の水分動態センサ」のプロトタイプを実現するとともに,植物の新梢末端での水分動態の測定の実現性や,センサの高速応答性・良好な動作安定性等の有用性を明らかにし,研究成果を着実に取得することができた. 以上の進捗から,当該年度は,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
上記に記載した通り,これまでのところは,順調に研究が推進しており,当初の研究計画に沿って,今後は,①改良版センサの製作(パッケ-ジングを施し,センサを完成)と②植物の水分動態に関する総合実験を推進する. 具体的に①に関しては,実際の植物の新梢末端や果柄等の細部へのセンサの装着・固定を行う手法として,配線付きの厚み25μm程度の薄いポリイミドフィルム上にチップを実装し,植物の末端部に巻きつけて装着するチップ実装法の検討を進め,屋外においても外界環境の影響を極力受けることなく,安定に測定が実現可能なことを明らかにする.また,②に関しては,本研究の最終目標である植物環境と新梢末端等の細部を含む植物全体での水分動態に関するセンシングを試みる.そのために,まずは,気象器(温度,湿度,照度,CO2濃度等)等の環境が制御された空間でのモデル植物での水分動態に関する基本デ-タの取得を行うとともに,それらのデ-タを基に,植物の主幹部と新梢末端部(センサを複数,多点配置して評価)での水分量の相関関係等を調べる. また,本研究で得られた研究成果の国内外への情報発信を行う.具体的には,国内のMEMS関係の最大の会議である電気学会のシンポジウム(センサ・マイクロマシンとその応用),MEMS関連の国際会議での発表,更に学術論文誌への投稿を行う.更に,センサの実用化に向け,産学管連携の研究体制の構築を検討するとともに,新たな外部資金獲得等についても,積極的に取り組む.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度,屋外等での植物生体情報計測に使用できる専用の電源付きデ-タロガ-を製作することにして費用を計上し,仕様策定から学内での発注まで推進したが,その後,正式な事務契約段階で,製作メ-カから一部の部品の納期が掛かり,納入が,年度を跨ぐことになるとの回答があり,やむを得ず発注を停止した. このため,前年度の当初計画に掲げた額が残り,その残額と今年度の当初予定の使用額の総和が,今年度の使用額となった. 今年度は,最終年度であり,「超小型植物水分動態センサ」の完成年度である.センサの製作に関わる消耗品,更にセンサを植物に装着・固定するために必要なセンサ実装費を計上している.また,上述に記載した電源付きデ-タロガ-の製作を進めて,実際の植物での水分動態の測定を,より簡便かつ安定的に実施できるようにするとともに,当初計画に記載した屋外での使用が可能なデ-タ解析用PCを購入する. これらにより,当初目標に掲げた植物の水分動態測定に関する総合実験を推進し,目標とするデ-タ取得を行う.
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