研究課題/領域番号 |
24510172
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
木股 雅章 立命館大学, 理工学部, 教授 (60388121)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 赤外線センサ / MEMS / 多波長 |
研究概要 |
本研究の目的は、1つの赤外線アレイセンサ上に、複数の分光感度特性を持った画素を配列した多波長非冷却赤外線アレイセンサを実現する基本技術を開発することであり、このためには、製造工程内で同時に複数の波長選択性実現できる赤外線吸収構造を開発することが最重要課題である。研究計画では、初年度の目標は、吸収層として多層薄膜などを用いて赤外線吸収構造を作製し、その特性をFTIRによる光学測定を行うとともに波長選択性をもった単画素赤外線センサを試作、評価し、応用を視野に入れて方式の絞り込みを行うことであった。 今年度は、多層赤外線吸収構造に関し、各膜厚をパラメータとし透過/反射特性を評価した。この結果、膜厚を制御することと絶縁膜の間に金属薄膜を挿入することで絶縁膜では吸収が見られない3~5ミクロンに吸収ピークを持たせることができ、吸収ピーク波長をある程度調整できることが分かった。しかし、絶縁膜の吸収波長帯である8~12ミクロンの範囲では、膜厚制御により変化はあるものも、短波長域の吸収ピークと独立に制御できないことが分かった。 今年度は、並行して赤外線吸収層として凹部をもった金属薄膜の検討を行った。この方式は、表面プラズモンを利用したものである。この赤外線吸収構造の評価は、通常受光部としている絶縁膜に等間隔の円形凹部を形成し、その上に金を蒸着した単画素のサーモパイル赤外線センサで行った。研究を進めて行く中で、受光面下部でも赤外線吸収があることが確認されたため、新しい画素構造を考案した。試作した素子を評価したとこ円形凹部の間隔と一致した狭い波長域で感度上昇が見られ、波長選択性を持った赤外線吸収構造として機能することが確認できた。具体的な応用としてCO2の共鳴放射の検出による火点検知を考えると、多プラズモニクス方式による鋭い吸収ピークが適していると結論に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「1つの赤外線アレイセンサ上に、複数の分光感度特性を持った画素を配列した多波長非冷却赤外線アレイセンサを実現する基本技術を開発する」という全期間の目標に対して、今年度は25年度以降に開発する多波長サーモパイル赤外線センサに用いることができる赤外線吸収構造を決定することを目指して研究開発を進め、通常受光部としている絶縁膜に等間隔の円形凹部を形成し、その上に金を蒸着したプラズモニクス波長選択吸収構造が、今回の目的に最も適していることを確認した。プラズモニクス波長選択吸収構造は、孔のピッチを変更するだけで吸収ピーク波長を制御できるので、マスク枚数を増やすことなく多波長赤外線アレイセンサを実現することができ、製造上も本研究の目的に合致するものである。さらに、プラズモニクス波長選択吸収構造の単画素赤外線センサTEGの評価から、センサ構造内での多重反射により吸収構造体裏面の赤外線吸収も起こるという問題点を見いだし、これを抑制する新しい構造を考案し、その構造を適用した単画素サーモパイル赤外線センサTEGを試作し、効果を確認した。 以上の成果は、当初計画していた達成レベルを超えるものであり、達成度は100%であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
波長選択の構造は、申請書で主と考えていた方式ではなくなったが、これは以後の計画に影響を与えるものではないため、今後は当初の計画通り研究開発を進める。平成25年度には、多波長を1チップに集積化したTEGを試作し、これを評価するために絶対感度測定が可能な分光感度測定システムを構築し、試作したTEGを評価する。これまで得られた結果では、プラズモニクス波長選択吸収構造での吸収がシミュレーション値とずれており、期待された感度が実現できていないように思われるので、この原因を究明し、改善策を検討する。また、吸収構造の凹部の形状や寸法についても最適値の検討を行う予定である。平成26年度には、開発した技術をもとにアレイセンサの試作を実施する。仕様については、現在のところ当初の計画通りとする予定であるが、検出波長については現在のところCO2の共鳴放射を検出するための最適な波長を選択することを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費については、昨年と同様に赤外線センサ試作に必要なシリコンウエハ、フォトマスク、蒸着材料、薬品などの消耗品購入に使用する予定である。分光感度測定など評価に係わる機材については、現状保有しているものを活用できる見込みであるが、真空チャンバの窓材やフィルタを購入する可能性もある。旅費の内、海外出張に関しては、4月にボルチモアで開催される赤外線関連の最大の国際会議であるSPIE DSSへの参加を計画しており、この学会でプラズモニクス波長選択吸収構造に関する研究発表をする予定である。国内出張に関しては、東京で開催されるマイクロマシン展における情報収集と、仙台で開催される電気学会センサ・マイクロマシンと応用システムシンポジウムでの研究発表を計画している。
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