研究課題/領域番号 |
24510177
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岸本 茂 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10186215)
|
キーワード | カーボンナノチューブ / 薄膜トランジスタ / 大気圧プラズマ / 集積回路 |
研究概要 |
今年度は大気圧プラズマでカーボンナノチューブ(CNT)の成長条件の検討と、成長条件が確立しているマイクロ波プラズマで成長したCNTを使って転写方式や転写材料の選定などの検証を行い、フレキシブル基板(PEN:ポリエチレンナフタレート)にCNTを転写しトランジスタ動作を確認すると共に、リング発振器を作製してPEN基板上で発振動作を実証した。 初めに大気圧プラズマの成長条件について、キャリアガスのヘリウムとプロセスガスのメタン、水素の流量比との間に放電安定性との相関があることが分かった。プロセスガスがメタンだけの場合は成長したCNT表面にアモルファスカーボンと思われる微粒子が付着するため、水素ガスの添加は重要である。しかし添加水素量が増加すると放電が不安定(放電停止や放電が集中する)になることから、安定した放電が維持できる条件は広くない。またCNTはある時間を経過して後、急激に成長し始め短時間でバンドルを形成することから、CNTがトランジスタチャネル用のネットワークを構築する時間の見極めが難しい。触媒の膜厚が0.05nm以下の超極薄膜のFe触媒がチャネル形成に有効ではあるが薄膜作製の再現性から、別なアプローチの検討が必要である。 フレキシブル基板への転写については、転写材としてポリビニルアルコール(PVA)の有用性を示した。シリコン基板上に成長したCNTにPVAを塗布し、凝固後に剥離してバックゲートと原子層体積法低温成膜アルミナをゲート絶縁膜としたPEN基板に転写、温水洗浄してPVAを除去することでCNT転写基板を作製した。その後オーミック電極を形成して、トランジスタ動作および11段のリング発振器の動作を確認した。 n型伝導については、大気圧プラズマによるCNT成長が不安定であったことから、まずはポリエチレンイミン(PEI)による化学ドーピングを行って、n型伝導制御を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で開発した大気圧プラズマ装置のCNTの成長条件(ガス流量、基板温度、成長時間、触媒材料と膜厚、放電高周波電力)は、ほぼ確立されつつある。しかし成長開始から短時間でCNTがバンドル化へと進むため作製したトランジスタは変調動作を示さないことがあり、成長条件の更なる検討が必要である。 転写材のPVAは日常生活に使われる物質で無害であることから、人体や環境に優しいこと、低コストで取り扱いが簡便であることから有効な材料である。しかし温水洗浄の際、アルミナのゲート絶縁膜の劣化が見られ長時間洗浄ができないことからPVAは完全に除去できず、CNTとオーミック電極とのコンタクト抵抗の増大による電気特性の低下がみられる。今後は洗浄工程の再検討とアルミナに代わるゲート絶縁膜の検討を行い、特性改善を進める。 集積化については、11段のリング発振器をPEN基板上に作成して発振動作を確認した。集積度は少ないものの転写したCNTにおいてもCNTの均一性は保たれ、フレキシブルなプラズチック基板上でも集積化が可能であることを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となるため大気圧成長CNTの変調性向上と窒素ドープCNTの成長、ゲート絶縁膜の検討について取り組む。CNTのバンドル化の抑制は成長時の基板温度や成長時間等を再検討する。また、また金属パスを減らす工夫として酸素雰囲気中の紫外線照射や成長時のキャリアガスによるプラズマ照射などを検討する。窒素ドープn型伝導の取り組みについては、表面保護膜の無い状態では大気中の酸素、水分の影響を受けてp型伝導になることが予想されるため真空中で電気測定を行い、窒素依存性についてはラマン分光法を用いて調べる。PVA除去の問題については、温水洗浄の際ALD(原子層体積法)成膜のアルミナ膜が劣化しゲートリークが問題となっている。PEN基板上ではアルミナの高温成膜ができないためであり、ポリイミドなどでリーク電流を抑えるなどアルミナとの2層絶縁膜を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
大気圧プラズマ装置でCNTの成長条件の検討を行ったが、CNTがバンドル化することが多く、薄膜トランジスタに利用できるネットワーク構造を再現性良く作ることができていない。一部放電電極の改造を行ったことでCNTは再現性良く成長しつつあるがバンドル化の問題は解消されておら問題解決に時間を有している。 最終年度ではあるが大気圧での高品質ネットワークCNT実現のため、放電電極と基板ホルダーの改造を検討する。バンドルによるソース・ドレイン間のリーク電流についてはCNTへの紫外線照射、プラズマ照射、マイクロ波照射などを行い、金属的なパスを除去する手法を検討する。その中で紫外線照射は酸素ガスが導入できる容器を設計し水銀ランプを使った除去効果についてを調べる。
|