研究課題/領域番号 |
24510181
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
羽多野 毅 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, グループリーダー (50354337)
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研究分担者 |
WANG Huabing 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 主幹研究員 (70421427)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 固有ジョセフソン効果 / テラヘルツ / ジョセフソン磁束格子フロー |
研究概要 |
ビスマス系高温超伝導体は、その結晶構造にジョセフソン接合が結晶の並進対称性を反映して膨大な数のアレイを形成していることから、数を利してのテラヘルツ発振素子開発が期待される。発振応用には、すべての接合を同期発振させる必要性から、磁束量子、特に接合に平行に印加された磁界により形成される“ジョセフソン磁束格子”を利用する方法が理論的に提案され、ジョセフソン磁束が接合電流によりローレンツ力を受けて接合面内を電磁波レベルの速度で運動(磁束フロー)させる現象の研究を行い、磁束の運動速度を評価するとともに発振条件を探った。 接合サイズをテラヘルツ帯での空洞共振条件を満たす30~80μmとし、磁場強度・磁場と接合のなす角度・バイアス電流・温度等々をパラメータとして実験を行った結果、まず接合温度5-10Kにおいて磁場を接合面(結晶のc面)と平行に印加することに成功した。これ以上の高温(T>20K)で磁束をc面に平行に印加することが出来ないのは、不可逆温度以上では、c軸に垂直の磁束(パンケーキ磁束が熱励起されるためと考えられる。 接合温度5-10Kにおいて高速のジョセフソン磁束フロー状態が見いだされ、磁束フロー電圧に応じた交流ジョセフソン効果(f=V/Φ0)が発現した。特に、幅L=80μmの接合スタックでは、そのキャビティ共振周波数f=c_0/2L=0.425THzに相当する1接合あたり0.88mVの磁束フロー電圧を発生させることに成功し、交流ジョセフソン効果と空洞共振器条件の合致した発振条件を実現した。(c_0=c/√εは結晶中の電磁波の伝搬速度)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビスマス系高温超伝導体単結晶から、その結晶構造に内蔵されているジョセフソン接合列を結晶劈開技術を併用した微細加工法により取り出すことに成功した。 接合に平行に印加された磁界により形成される“ジョセフソン磁束格子”とその磁束フロー現象を利用するために、磁場強度・磁場と接合のなす角度を検討し、磁界と接合面との平行化条件を見出した。この条件では磁束(ジョセフソン磁束)が接合電流によりローレンツ力を受けて接合面内を電磁波レベルの速度で運動(磁束フロー)する現象を接合温度5-10Kにおいて見いだした。この状態を実現するためには、超伝導遷移温度の近傍で磁界方位との角度合わせを行った後、磁場を一旦ゼロにして低温まで冷却し、再び所定の磁場を印加するという手順が必要であることも明らかにした。 幅L=80μmの接合スタックでは、そのキャビティ共振周波数f=c_0/2L=0.425THzに相当する1接合あたり0.88mVの磁束フロー電圧を発生させることに成功し、交流ジョセフソン効果と空洞共振器条件の合致した発振条件を実現した。(c_0=c/√εは結晶中の電磁波の伝搬速度) 一方で、高温(T>20K)では高速のジョセフソン磁束フロー状態が実現できていない。また、磁場中で角度合わせを行う際に、結晶が劈開して割れるという現象も見出された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究には、高品質のビスマス系高温超伝導体単結晶が必要であるが、これまでの研究で”劈開性を抑え”、不可逆温度を上げるなどの要請も加わった。そのためにBiO面-BiO面の間の過剰酸素量を増やすなどの方策を試みるとともに、結晶破壊の引き金となる欠陥密度を下げる。 接合スタック・サイズが大きい程、磁界による強い力が働くので、磁場と平行の方向のスタック・サイズを短くする方法を検討する。 結晶の欠陥密度を下げることにより、より低磁場でより高速の磁束フローを実現することにより、磁場平行条件を拡大するとともに、結晶の劈開を防止する。 結晶は基板に貼り付けるだけであったが、誘電体保護膜・ポリイミド塗布剤などを利用して、機械的強度の強化を図る。 ビスマス系以外の高温超伝導体でも、接合に平行に印加された磁界により形成される“ジョセフソン磁束格子”を利用する発振条件を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
ビスマス系高温超伝導体単結晶の合成には、従来純度99.9%の試薬を用いてきたが、試薬の純度を上げることで欠陥密度を下げる。また、層状結晶の成長においては、層間に異相が混晶する場合があり、試料破損の原因となるので、単結晶育成のプロセスから見直しを行う。 単結晶試料の基板への搭載法、磁界中強度向上の方策を検討する。 磁界中でも動作するイットリウム系高温超伝導体粒界接合素子を用いて、テラヘルツ発振の検波を行う。 対外成果発表・研究交流・情報収集のために、この分野の主要会議に参加・講演を行う。
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