研究課題/領域番号 |
24510194
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
室町 幸雄 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (70514719)
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キーワード | 金融リスク管理 / ファイナンス / リスク計測 / 統計学的モデル / ストレステスト |
研究概要 |
昨年度投稿したリスク計測モデルの論文は,査読レポートに沿って改訂し,再投稿した.この投稿論文は離散時間離散状態モデルを扱ったが,現在は連続時間モデルについて考察し,英語論文として執筆中である.また,実務でリスク管理によく使われる主成分分析を用いた金利モデルと整合的な無裁定金利モデルについて理論的に考察し,整合的であるための条件を導出した.この成果は英語学術論文として投稿し,受理された. 一方,リスク計測の基礎となる価格付けモデルでも成果が得られた.まず,取引相手の信用リスクの証券価格への影響について考察し,特にエネルギーデリバティブの価格付けモデルを提案した論文が国内学術雑誌に掲載された.この論文では,取引相手と自社の信用リスクの相関関係だけでなく,それぞれのデフォルト確率と損失額の相関関係の価格への影響も考慮している. RMBS(住宅ローン債権担保証券)の価格付けの論文も国内学術雑誌に掲載された.この論文では,将来金利が負にならず,かつ現在の金利期間構造を再現できる確率金利モデルを使用し,期限前償還率は金利の一次関数で,償還率の金利依存度は時刻とともに変化しうることにしていた.ところがこのモデルでは,将来時点でかなり高金利になると期限前償還率が負になるため,RMBS理論価格が現実と異なる振る舞いをすることがあった.そこで,期限前償還率が負にならないモデルを考案し,RMBS価格の近似解を求めたところ,将来高金利になっても現実のRMBS価格と同様の振る舞いをするようになった.また,金利モデルを若干修正したところ,スワップションの市場価格と理論価格の整合性が飛躍的に向上した.そこで,これらの成果を論文にまとめ,国内学術雑誌に投稿した. また,2012年度に開催した国際ワークショップの予稿集出版の編集にエディターとして携わり,海外学術出版社より査読付論文集として刊行した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポートフォリオのリスク計測モデルに関しては,離散時間離散状態モデルによって金融危機時の状況(一種のストレス事象とみなされる)と整合的な数値計算例を示すことができた.統計学的モデルでこのような結果が得られたことの意義は大きい.しかし,連続時間モデルの開発は予定よりやや遅れている.一方で,昔から金利モデルの課題の一つとされていた,主成分分析による金利モデルと無裁定金利期間構造モデルの理論的整合性に関する研究では有益な成果が得られた.この結果は更なる発展性も内包しており,本研究課題を超えて,広くリスク計測理論全体の進展にも繋がり得る. また,リスク計測モデルの基礎となる価格付けモデルでも成果が挙げられたことも評価に値する.一つは,最近のホットな研究テーマの一つであるカウンターパーティーリスクに関しての成果であり,もう一つはRMBSの価格付けに関する成果である.特に後者は,RMBSという証券化商品の一種を対象としたモデルであるが,そこで使われている手法は期間構造を持つ変数の確率的挙動のモデルとして一般的に適用可能であり,応用範囲は広い.また,金利モデルの修正によるカリブレーション結果の劇的な向上は,実務的にインパクトのある成果である. さらに,エディターとして参加した海外学術出版社からの査読付予稿集の出版は社会的な貢献にもなった. 総合的にみると,本年度は連続時間モデルの検討が遅れたものの,それを補って余りある成果が得られたと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究計画の最終年度でもあるので,まずは研究計画に沿って離散時間離散状態モデルの連続時間モデルへの拡張を進めていく予定である.しかし,金利の主成分分析モデルと無裁定モデルの整合性に関する議論も重要なテーマなので,今後は並行して進めていくつもりである. 価格付けモデルに関しては,RMBSの評価で用いたモデルを実際の観測データに適用し,モデルの有効性を実証的に示す予定である.期限前償還率のデータ分析結果を具体的に示すことで,モデルで用いた手法の長所だけでなく,適用範囲の広さも示唆することができると考えている.
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