研究課題/領域番号 |
24510203
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
増川 純一 成城大学, 経済学部, 教授 (30199690)
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キーワード | 株式市場の暴落 / 市場参加者の集団行動 / 意志決定モデル |
研究概要 |
本研究の目的は,①情報がもたらす価格への影響はニュースの軽重だけでなくその時の市場の不安定性に依存して決まること,②株価はニュースだけでなく市場参加者の予見と実際の価格変動とのフィードバック効果により内生的にも形成されることを実証研究やモデルを用いた考察から明らかにすることである. これらの研究目的のために, 1. ニュース・インパクトの蓄積効果の検証,2. 市場参加者の協調的集団運動の検証,3. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証および,4.異なる時間スケール間の情報伝達過程を検証し,5.内生的価格形成メカニズムとの関係を明らかにすることを研究実施計画として掲げた. これらの実施計画のうち,1.と2.に関しては,平成24年度に行った「暴落時における株価の協調的集団運動の実証研究」により検証し,学術論文その他で成果を発表した. 平成25年度は,これらの成果を踏まえ,実施計画2.3.を進めるために,暴落時の市場の変化を,板(オーダーブック)というミクロな視点から解析した.具体的には,特別気配という売り注文と買い注文がどちらかに極端に偏ったアンバランスな状況における市場参加者の発注行動に関してモデル化を行い,東証の売買注文のデータを用いて検証した. モデルでは,市場参加者は個人情報と他の市場参加者の選択行動を参考にして意志決定を行うとした.2008年10月の内生的な暴落時と2011年3月15日の東日本大震災時における暴落時を比較した.その結果,内生的な暴落(株価の下落幅に見合う大きなニュースがない暴落)においては,ほとんどの銘柄において市場参加者は他の市場参加者の影響を受けながら売買の意志決定を行ったが,3.11のような外生的ショックによる暴落時には,意志決定の方法は銘柄によってまちまちであった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,1. ニュース・インパクトの蓄積効果の検証,2. 市場参加者の協調的集団運動の検証,3. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証および,4.異なる時間スケール間の情報伝達過程を検証し,5.内生的価格形成メカニズムとの関係を明らかにすること,またこれらの実証研究の成果を踏まえて6.内生的価格形成の数理モデルを作成することを研究実施計画として掲げた. これらの実施計画のうち,1.と2.に関しては,平成24年度に行った「暴落時における株価の協調的集団運動の実証研究」により検証し,学術論文その他で成果を発表した. 平成25年度は,これらの成果を踏まえ,実施計画2.3.を進めるために,暴落時の市場の変化を,板(オーダーブック)というミクロな視点から解析した. 特別気配という売り注文と買い注文がどちらかに極端に偏ったアンバランスな状況における市場参加者の発注行動のモデル化と,2008年10月の暴落時の東証の売買注文データによるその検証から,市場参加者間の情報による相互作用に関して大きな知見が得られた.今後は,事例を増やして内生的価格形成の発展過程をより的確に表すモデルを検討したい. 4,5に掲げた異なる時間スケール間の情報伝達過程と内生的価格形成メカニズムとの関係の検証に関しては,まだ手が付けられていない状態である.しかしながら,6.に関して,Multi-fractal Random Walk Modelなどの異なる時間スケールを取り込んだ,実証研究とのリンクが可能な数理モデルの検討を確率論の研究者とともに行っている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は次のような研究を行う. 1. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証の目的では,25年度に行った暴落時の特別気配における市場参加者の協調的集団行動の研究を引き続き行うとともに,その成果を通常の状態の株式市場にも敷衍したい. 2. 異なる取引主体(機関投資家,ヘッジファンド,個人投資家)が持つ異なる取引時間スケール間の情報伝達過程の変化と市場リスクの関係を明らかにする.情報伝達過程は,相互情報量などの情報論的概念や,異なる時間スケールのボラティリティ時系列の相互相関係数などを用いて定量化する.また,暴騰暴落時にそれらの値がどのように変化するのかを調べ,リスク指標として利用できるかを検討する. 3. 大きな時間スケールでの価格変動が小さな時間スケールの価格変動にまで伝搬することを異なる時間スケールの変動をモデル化したMulti-fractal Random Walk Modelや,価格変動が価格変動を引き起こすことブランチング・プロセスをモデル化したSelf-exciting Hawkes Modelを下敷きにして,精密な検証に耐える数理モデルを構築する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行の為のプログラムコード作成の外部委託が年度内に終了せず,その費用を繰り越したため. 研究遂行の為のプログラムコード作成の外部委託費として使用する。
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