研究課題/領域番号 |
24510204
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石島 博 中央大学, その他の研究科, 准教授 (20317308)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不動産と金融資産 / 動学的確率的一般均衡 / ファイナンス / 金融工学 / 理論と実証 / 混合効果モデル / リスクとリターン / インデックスと指数 |
研究概要 |
本研究では、不動産を金融資産と同様、最新のファイナンス理論によって統一的に分析すべく、その橋渡しとなる理論構築と実証分析を行うことが目的である。具体的には、2つの研究テーマに取り組むことを目的としている。 【研究テーマ 1】不動産のリターンを高頻度な時間間隔で生成する理論と統計分析法の確立【研究テーマ 2】不動産のリスクとリターン特性の金融資産との比較解明 H24(2012)年度は、上記の2つのテーマに沿った研究を行い、多くの国内外の学会発表や学術研究論文として結実することができた。その研究成果は以下の3つの研究項目として要約される。 (1)不動産のリターンに関する理論モデルの構築: 研究代表者・連携研究者がすでに構築した完全競争市場における不動産価格評価理論を拡張し、その「リターン」に関する理論モデルを構築した。その上で、不動産研究で代表的なモデルとの対応関係を理論的に導いた。 (2)不動産価格の統計モデルの構築: いくつかの技術的な条件の下、不動産の理論価格はこれを構成する属性価格の線形結合として表現される。しかし、実際の市場での価格はこれと乖離していることが考えられる。そこで、(i) 実際の市場価格の理論価格からの「歪み」、および (ii) 不動産には同じものは1つしかないという「個別性」を考慮し、統計学分野で研究されているBox-Cox付き混合効果モデルとして構築した。 (3)不動産のインプライド・リターンの生成方法の考案: (2)の不動産市場価格の統計モデルを、各時点において不動産クラスごとに推定する。これを利用して、各時点において価格が観測された不動産が、もし、その1時点前に取引されたら評価されたであろうインプライド価格(帰属価格)を推定することにより、インプライド・リターンを定義できる。その具体的な生成方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、不動産を金融資産と同様、最新のファイナンス理論によって統一的に分析すべく、その橋渡しとなる理論構築と実証分析を行うことが目的とし、2つの研究テーマに沿って、「研究成果」に述べた3つの研究項目に取り組んだ。その際、理論や統計モデルの構築に加えて、その有効性を示すべく実証分析を行ったことにより、多くの国内外での研究発表や学術研究論文として結実することができたと考えている。 具体的には、以下の2点が上げられる。 (1) 不動産の価格形成に関する実証分析: 提案した統計モデルに基づき、不動産価格形成における個別性の要因として、立地地域・用途・経年等に着目し、我が国の不動産市場における価格形成を詳細に分析した。 (2) 不動産のインプライド・リターンに関する実証分析: 提案した統計モデルに基づき、不動産のインプライド・リターンを推定することにより、市場全体と不動産クラスごとのリターンに分離・抽出が可能となった。これらは、不動産市場全体および各不動産クラス・層区分という新たなアセットクラスのリターン・インデックスと見なすことができる。つまり、不動産の投資について、金融資産と同様にリスクとリターンの評価を行うことができることを意味する。したがって、本研究成果として、不動産投資に、ファイナンス理論や金融工学を直接的に適用した分析を可能とした点が上げられ、その波及効果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、本研究では、不動産を金融資産と同様、最新のファイナンス理論によって統一的に分析すべく、その橋渡しとなる理論構築と実証分析を行うことが目的である。具体的には、2つの研究テーマに取り組むことを目的としている。 【研究テーマ 1】不動産のリターンを高頻度な時間間隔で生成する理論と統計分析法の確立【研究テーマ 2】不動産のリスクとリターン特性の金融資産との比較解明 H25(2013)年度は、上記の2つのテーマに沿って、特に以下の研究項目について研究を行う。 (1)不動産投資を組み入れた最適ポートフォリオ選択とそのリスク・リターン特性の分析: わが国のみならず、欧米・アジア各国の不動産投資のリスク・リターンの特性を、株・債券等の金融資産やコモディティなどのオルタナティブ投資と比較しつつ明らかにする。また、動的な対数平均分散モデル(Luenberger)により、不動産を組み入れた最適ポートフォリオを構築する場合に、どれくらいリスク・リターン特性を改善するかを分析する。 (2)不動産と金融資産のリターンの間に存在するリード・ラグ分析:本フレームワークの特色は、均衡不動産価格のみならず、均衡金融資産価格と均衡不動産賃料も同時に導出される点にある。この特色により、定常状態における、不動産取引市場のリターンと金融資産取引市場のリターンとの間に成立する関係式「不動産と金融資産のパリティ」を基礎とした適切な統計モデルを構築する。これを用いた実証分析により、不動産の市場全体および各不動産クラスのリターン(あるいは価格)と、株式・債券・デリバティブズといった金融資産のリターン(価格)との間のlead-lag構造を明らかにし、2008年の金融危機のメカニズムを探求する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、研究目的と計画に沿って、適切に研究費の支出・管理を行っている。そのため助成されたH24(2012)年度の研究費の残金は僅かであった。ただし、本科学研究費助成の基金化のメリットを十分に利活用すべく、年度末において僅かだが貴重な残金の支出をあえて行うよりも、次年度に継続して行う研究に有意義に利用したいと考えている。 H25(2013)年度には、研究目的に沿って「不動産と金融資産のリターンの間に存在するリード・ラグ分析」を研究実施計画として上げている。これを実施するためには多くの費用支出が引き続き必要であるため、貴重な繰越金を十分に利活用したいと考えている。
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