研究課題/領域番号 |
24510209
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
八木 勲 神奈川工科大学, 情報学部, 准教授 (10457145)
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キーワード | ファイナンス / 人工市場 / 市場規制 |
研究概要 |
今年度は,各種市場規制のうち,値幅制限(ストップ安)とトリガー式アップティック・ルールが市場に与える影響を分析するとともに,昨年度から引き続き,現実市場がもつ特性に,より近づくよう精度を上げた人工市場シミュレーションシステムの構築を行った.以下,それぞれの詳細を述べる. 前者では,はじめに,人工市場を用いて,現在の市場価格から大きくかけ離れた注文を大量に発注する,いわゆる大規模誤発注が行われたとき,現実市場の価格変動に与える影響の分析を行った.その結果,大量の誤発注が短時間に集中する場合と,少量の誤発注が長期にわたる場合を比較すると,誤発注数が同一であるならば,両者は同程度の価格下落を導くことが分かった.さらに,このような大規模誤発注が行われたとき,値幅制限(ストップ安)およびトリガー式アップティック・ルールが市場混乱を抑える効果があるかどうかを分析した.誤発注時の値幅制限の効果を分析した結果,誤発注期間より値幅制限の期間が短いか同じくらいのとき,値幅制限が有効であることが分かった.さらに,空売りの価格規制の一種であるアップティック・ルールが誤発注時に与える効果を分析したところ,本ルールは,誤発注期間と同じくらいの期間で解除しないと価格が下げ止まった後,急騰してしまうことが分かった.また,一旦下がった価格がある一定の価格まで持ち直してきたときに解除する方法も価格安定化には有効であることが分かった. 後者を行う上で着目した点は,現実の信用取引制度をより正確に反映した人工市場を対象とする点である.既存研究で提案された信用取引に対応した人工市場は,現実市場の特性を反映していたものの,モデルが非常にシンプルであった.そこで,より現実的な信用取引制度モデルを採用し,その上で現実市場の特性を反映した人工市場の構築を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各種市場規制が金融市場に与える影響を検証するシステムの開発は当初の予定通り行うことができた.また現実市場に沿った人工市場への改良も順調に進んでいる.これらの成果については,情報処理学会や人工知能学会で発表済みである. しかし,さまざまな市場規制を自由に組み合わせた統合型市場規制が,市場安定化に有効であるかを検証する包括的規制検証システムの設計がやや遅れている(約1.5ヶ月).理由としては,組み合わせ候補とすべき市場規制の選定に少し時間を要しているからである.
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今後の研究の推進方策 |
上記のように包括的規制検証システムの設計が若干遅れているため,早急に仕様を固めたいと思っている.そして,本年度で予定している包括的規制検証システムの開発の段階で,学生アルバイトを増員するなどして,時間短縮を図る予定である.開発が終わり次第,個々の市場規制では対応できない不安定な市場を安定化する,包括的な市場規制法を提案することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の助成金のうち一部繰り越しが発生した理由は,以下の2つである.1つは,包括的規制検証システムの設計がやや遅れており,設計が済み次第購入予定であったシステム開発用PCおよびその周辺機器をまだ購入していないからである(約25万円).もう1つは,システム設計作業補助の学生アルバイトの作業も一部実行されていないため,アルバイト費用が計上されていないからである(約5万円). 上記のように,システム開発に必要なPCおよびプリンタ等周辺機器の購入に約25万円,学生アルバイト(システム設計作業補助)に約5万円を使用する予定である.
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