今年度は,昨年度検証した各種市場規制に対して,価格決定メカニズムが異なる場合でも同様の結果が起こりえるのかどうかを確認した.さらに,市場規制をそれぞれ単独で使用する場合と,複数の市場規制を組み合わせて使用する場合とで,市場価格安定化に違いがみられるか確認した. まず前者について述べる.現実の金融市場の価格決定メカニズムは主なものとして板寄せ方式とザラ場方式がある.昨年度はこのうちザラ場方式による価格決定を行う市場において,市場価格急落時にどの市場規制が市場価格をより早く安定的に導くかを検討した.具体的には,市場価格が急落した時,値幅制限,完全空売り規制,アップティックルールの市場規制を1つづつ市場に適用し,どの市場規制が最も早く市場価格を安定化させるかを確認した.その結果,値幅制限が最も早く市場価格を安定化させることがわかった.さらに,他の市場規制も市場安定化には貢献するが,市場価格が安定しているときは反対に不安定化させることもわかった.これらの結果を受けて,今年度は,もう一方の板寄せ方式による価格決定を行う市場において同様の実験を行った.その結果,ザラ場方式による価格決定を行う市場と同じ傾向になることがわかった.すなわち,市場価格急落時には値幅制限が最も市場価格を安定的に導くことがわかった.他の市場規制は,ザラ場方式の市場で利用したときよりも市場価格を不安定化させることがわかった. 後者については,値幅制限と完全空売り規制を組み合わせて使用することが,それぞれの市場規制を単独で使用することより市場価格安定化に良い効果を与えるかどうかを実験した.その結果,市場価格急落時には,完全空売り規制の影響でバブルが発生してしまうことがわかった.よって,市場価格急落時には市場規制はむやみに組み合わせず,値幅制限にて対応することが最も効果的であることが結論付けられた.
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