平成24-26年度にわたる本研究課題「リアルオプション評価法による汚染物質削減投資プロジェクトの評価モデルの開発と応用」において,リアルオプション評価法を用い,汚染物質を削減する投資プロジェクトについて,投資が繰返される事や技術進歩などを考慮した評価モデルを構築した。研究期間最終年度においては,以下の2つの研究成果を得た。 先ず,事業活動の副産物として排出される汚染物質によって生産性が低下するため,汚染物質削減装置の導入を検討している企業の問題を考察した。分析に際しては,企業は将来にわたって必要に応じて汚染物質削減装置を導入出来る事を考慮し,企業の問題を特異確率制御問題として定式化した。分析の結果,最適な汚染物質削減装置への投資戦略を求め,さらに,企業の投資戦略に影響を与える重要なパラメータについて比較静学を実施し,企業の投資戦略についての示唆を明らかにした。代表的な結果として,汚染物質削減資本に関する不確実性が大きくなるほど,企業の汚染物質削減投資が抑制されることが示された。 次に,不確実性の概念を拡張し,確率分布が一意に定まらない曖昧性を考慮し,その下における投資問題を考察した。これは,気候変動のような長期にわたる取り組みが必要となる環境政策への対応を念頭においている。分析に際しては,代表的消費者と企業からなる生産経済において,将来の所得に曖昧性が存在する場合における問題を,central planner's problemとして定式化した。分析の結果,各期の生産に関する最適な投資量を求め,さらに,意思決定主体の戦略に影響を与える重要なパラメータについて比較静学を実施し,投資戦略についての示唆を明らかにした。代表的な結果として,曖昧性回避度が高まれば,資本への投資が促されることが示された。
|