研究課題/領域番号 |
24510223
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
小浦方 格 新潟大学, 産学地域連携推進機構, 准教授 (30401772)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イノベーション / 産業ネットワーク / 社会関係性資本 / 地域間ネットワーク / 産学連携 |
研究実績の概要 |
小千谷地域と燕三条地域の企業をそれぞれ地域の産業群と考えた場合の地域間・産業間ネットワーク構築について実証研究を行った。手法としては、研究者自身がコーディネート役であり、かつ県内の産官学連携ネットワークにおける活動主体として関わりながら、参与観察的に上記ネットワーク構築を試みた。具体的には、それぞれの地域におけるリーダー的なポジションにあると考えられる数社の企業経営トップ層に対して本研究の趣旨と重要性を十分に説明し、賛同を得た上で2回のグループミーティング、相互企業訪問(工場見学)を実施することにより、お互いの有する技術や企業経営、地域産業等の強み、弱みに関する気付きを促し、ネットワークの自律、拡大、活性化を図った。研究者はコーディネートに徹するだけではなく、論文等の文献調査、学会参加によって得た情報を解釈とともに随時情報発信し、参画者の意識啓発を継続した。 地域の境界を越えた産業間ネットワークの構築がイノベーションの要因となり得るかは必ずしも明らかでは無い。本研究は、その因果関係を確認することが第一目的である。短期間の研究ではあるものの、既に地域を越えた企業間連携による新事業提案の報告があり、ネットワークの有効性が示されつつある。第二の目的は、ネットワーク化した各主体が相互に長所、短所を指摘し合うことで、「学習するネットワーク」へ発展するかという点にある。ミーティング後の調査から、「気付き」があったことが確認されたが、第三の目的であるネットワークの自律、域内外への拡大、新規参画者の呼び込みは困難が見られる。地域内の「濃いネットワーク」がロックイン効果を引き起こしている様子も見て取れる。ネットワーク化には相互の信頼が欠かせないが、ロックイン効果の克服を含め、地域を越えた社会関係性資本としての相互信頼感の醸成に寄与する要因解明と実証が、先ずは当面の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域間ネットワークミーティングは当初予定のとおりに実施し、途中経過は国際会議において発表済みである。参与観察手法を積極的に取り入れ、単に客観的な観察に基づくケーススタディに加え、研究そのものの意義や進捗、研究者としての見解をも参画者に随時説明することで、参画者自らも研究者であるかのごとく意識付けを試みている。即ち、研究者自身もネットワークを構成する一員として、企業等からの参画者からのフィードバックを本研究に施すことにより、「無理のない、自発的な(地域間)ネットワーク化」が進んでいると考えて良い。しかしながら、参画者がネットワークの有効性を「体感」し、自らが進んで相互に学習し、ネットワークの自律化、拡大、積極的な利用を図る姿勢は十分には観察できていない。一般的にこのようなネットワークによる効果の出現には時間がかかるため、たかだか1年間の活動で評価することは困難ではあるものの、定性的には参画者の意識変化も見え始めている。本研究を進める過程において、社会関係性資本が新たなキーワードとして浮かび上がったため、社会科学、経済学の専門研究者から協力を得る体制をとり、ネットワークミーティングでの知見の紹介など、具体的に本研究に関与するようになった。
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今後の研究の推進方策 |
新たな地域間ネットワーク構築の開始から未だ1年が経過したのみであり、最終的なネットワークとイノベーションの因果関係に関する定量評価は困難である可能性が高い。しかしこれは当初から想定した範囲であり、これらはインタビューやアンケート等による定性的な分析が主たる手法となると予想される。特に、ネットワーク参画者自らがいくらかのコストを割いてでも、本研究で扱う地域間ネットワーク構築と拡充、拡大を継続する意思を持つか否かが一つのマイルストーンとなる。ネットワーク活動を維持するか、あるいは中止するか、いずれの場合においても、その意思決定に与える要因を詳細に検討し、分析する。 ネットワークの維持、拡充に大きな影響を与える要因に、地域社会の有する風土や文化、歴史に加え、特に地域のリーダー的役割を持つ参画者個人の属性が示唆されている。今後はこれらについても分析を試みたい。
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