研究課題/領域番号 |
24510228
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松井 岳巳 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (50404934)
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研究分担者 |
橋爪 絢子 首都大学東京, システムデザイン学部, 助教 (70634327)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ストレス評価 |
研究概要 |
「ストレスが測れる椅子」を試作した。これは小型マイクロ波レーダーを内蔵したアンテナボックス・ハイパスフィルター・AD変換機・PCから構成されるシステムを、背もたれがメッシュ状の椅子に裏側から備えつけたものである。 非接触型バイタルサイン測定器であるマイクロ波レーダーは最大出力10mW,24GHzの安定したマイクロ波を発生させる。アンテナボックスには送・受信用の4重極の平面アンテナを収納した。このアンテナボックスを背もたれの裏側、背部左側第4肋間狭付近に設置し、被験者の心臓の動きによって変調されたレーダーのアナログ反射信号をPCで記録する。 マイクロ波を利用することにより、数センチ程度の離れた位置、且つ着衣のままという完全なる非接触状態を作り出すことができた。非接触のまま心拍に伴う微小な体表面の変則を測定し、最大エントロピー法(MemCalc)を用いて心拍数変動指標(HRV)を計測する。また心肺計測と同じレーダーにて呼吸数を求め、ストレス指標である唾液中αアミラーゼ濃度を推定する。 ストレスに伴う交感神経の緊張は、通常では心電図電極を用いる接触型にて測定され、被測定者に負荷を与えるものであるが、本研究により試作された椅子を用いることにより、その負担を軽減させ、尚且つ客観的なストレスの度合いを判断することが可能となる。また椅子に座るという単純な動作は、被測定者にも理解しやすく、必要に応じてモニターリング時間を変更することも容易である。 労働衛生におけるメンタルヘルスの重要性が問われる現在、職務上のストレスに起因するうつ病のなどの客観的判断を容易にする本研究は大変意味のあるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、小型レーダーをイスの背もたれの後ろに設置し、自律神経の活性を非接触で測定可能なイスを作成した。このイスをもとにバイオフィードバックシステムを構築し、リラックスの誘導とリラックス状態の評価が同時に行えるようになった。バイオフィードバックシステムは、リラックスや緊張の程度を表す心拍数変動指標のHFやLF、LF/HFを自動かつリアルタイムで計測し、システムの利用者にリラックスの程度を表す副交感神経活性指標HFの値およびその変化を提示させ、バイオフィードバックが行える仕様とした。それに加え、映像と音でリラックスを誘導する設計とした。また、このシステムを病院の精神科に設置し、うつ病患者を対象としてシステムの試験的運用を行った。本システムを用いてバイオフィードバックを実施した後、健常者ではHFが上昇し、緊張を示す交感神経指標のLFが低下したが、うつ病患者ではHF、LFが共に低下していた。このことから、うつ病患者と健常者では自律神経の働きが全く異なることが示唆された。本システムの特徴は以下の点にある。 ①電極等を一切使用しないため、医師等の医療従事者が立ち会う必要が無い。 ②ストレスやリラックスに伴う自律神経の活性をモニターするだけではなく、患者の状態をモニターしながらバイオフィードバック療法を施行した治療に用いることが可能である。 このように、現在、構築したバイオフィードバックシステムの臨床応用の段階まで進んでいる。今後、共同研究を行っている精神科医と議論しながら、システムの改良を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、生理学的ストレス指標から、連続して計測し続けることが難しい生化学的ストレス指標の推定を行う。多変量解析の方法を用いて、心拍数変動指標に加え、心拍計測と同じレーダーにて呼吸数を求め、これらの生理学的指標から生化学的指標を推定する。第一段階として、レーダーから得られた生理学的指標を用いて、ストレスに関連する生化学的指標である唾液中αアミラーゼ濃度およびその変化の推定を試みる。唾液中αアミラーゼ濃度はストレスホルモンである血液中のノルエピネフィリン濃度と強く相関することが知られており、ストレス反応が起こった場合に濃度変化の生起が速い。また、血液と比較して唾液の採取は容易で、アミラーゼモニター等の計測器を用いることで容易に唾液中αアミラーゼ濃度の計測が可能であるため、推定した唾液中αアミラーゼ濃度値の検証を行うことができる。さらに次の段階として、血液中のストレスホルモンの変動の推定についても取り組み、生化学的ストレス指標の推定とその精度向上に努めることが今後の研究の大きな目的である。 ストレスに伴う交感神経の緊張は、通常では心電図電極を用いる接触法により測定され、被測定者に負荷を与えるものであるが、本研究により試作されたイスを用いることにより、その負担を軽減させ、なおかつリラックスや緊張の程度を客観的に判断することが可能となる。さらに、今後の研究によってうつ病の発症と密に係わるストレスホルモンの変動の推定が可能になると期待できる。労働衛生におけるメンタルヘルスの重要性が問われる現在、職務上のストレスに起因するうつ病のなどの客観的判断を容易にするべく、基礎的および臨床的検討を進める所存である。
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次年度の研究費の使用計画 |
①脳血流分布推定ソフトウェア 800,000円 ②国内外の学会参加費、交通費 400,000円 ③電子部品、レーダー部品、基板等 500,000円 平成24年度直接経費の未使用額は、物品購入際における調達方法の工夫により、経費削減した結果である。
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